日本の伝統的な美術を核としながら、楽茶碗や唐物茶碗など多くの茶碗を紹介してきた三井記念美術館。
本展覧会では、現存する数は和物茶碗にも並ぶと言われながらも、やや難しい印象をもたれる「高麗茶碗」を紹介しています。
茶の湯の茶碗は、産地によって、中国の“唐物茶碗”、日本の“和物茶碗”、そして朝鮮半島で焼かれた“高麗茶碗”の3つに分けられます。中国から喫茶法が伝わって以来、唐物が中心だった室町時代末期に、新しく見いだされたのが、高麗茶碗です。今回は、なかなか見ることの出来ない個人蔵の作品が一堂に会する、とても貴重な機会です。
展示は、時代を追って3つの章立てとなっています。
まず、16世紀に、朝鮮半島各地で日常品として焼かれた器が、茶の湯のために見立てられたもの。次に、16世紀末から17世紀初め頃、日本向けに焼かれたと思われる茶の湯の茶碗。最後に、17世紀から18世紀中頃、対馬藩の贈答品として焼かれた「御本」の名称で親しまれているものです。
展示室でまず目に留まるのは、茶の湯のために見立てられた、「大井戸茶碗」です。
井戸茶碗は、器形の違いにより、大井戸・青井戸・小井戸・小貫入の4種類があります。「大井戸」は、その名のごとく、大らかに轆轤引きされた、深い見込みと高い高台がある茶碗です。姿も釉薬も理想的に焼きあがった、インパクトのある力強い作品です。
展示室5では、日本向けにつくられた茶碗の一つ、「堀三島」を展示。灰色の素地に純白の白土を塗って、さまざまな意匠を作り出し、透明釉をかけて焼き上げたものが特徴です。鮮やかな印花文が施されており、とても印象に残ります。
同様に、日本向けにつくられましたが、その後変化していった茶碗が展示室7にあります。「御本(ごほん)」は、朝鮮との国交の窓口を担っていた対馬藩が、朝鮮で焼かせた茶碗。京都から注文を受け、贈答用につくられました。当初は高麗茶碗に倣っていましたが、次第に和様化していき、京焼の様な作品も生まれました。
時代や土質や釉薬、作行きは多様ですが、どれも素朴さと大らかさを特質としている高麗茶碗。作品それぞれを見比べるだけでなく、キャプション横にある高台の写真と一緒に鑑賞することで、より茶碗の魅力を味わえるのではないでしょうか。
[ 取材・撮影・文:坂入美彩子 / 2019年9月13日 ]
※会期中に展示替えがあります。