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    レポート
    ル・コルビュジエ 絵画から建築へ ― ピュリスムの時代
    国立西洋美術館 | 東京都
    ‘ル・コルビュジエ’になる前
    近代建築史に燦然と輝く巨匠、ル・コルビュジエ(1887-1965)。本館を設計した国立西洋美術館など7か国17資産は、2016年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。若き日の「ピュリスム(純粋主義)」運動に焦点を当てた展覧会が、同館で開催中です。
    (左から)シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ)《暖炉》の習作 1918年 / シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ)《暖炉》1918年 ともに パリ、ル・コルビュジエ財団 ⓒFLC/ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018 B0365
    国立西洋美術館「19世紀ホール」
    (左から)フアン・グリス《果物皿と新聞》1918年 静岡県立美術館 / フアン・グリス《ギター、パイプ、楽譜のある静物》1920年 アイントホーフェン、ファン・アッベ美術館
    (左から)シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ)《縦のピュリスム的静物》1922年 協力:ズロトウスキ画廊 / シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ)《輝く静物》1922年 森稔コレクション ⓒFLC/ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018 B0365
    (左から)シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ)《エリオポリス》1924年 ジュネーブ、カンデュール美術財団/ シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ)《2本の瓶(ばら色の背景)》1921-23年頃 森稔コレクション ⓒFLC/ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018 B0365
    (左から)ル・コルビュジエ《レア》1931年 大成建設株式会社 / シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ)《円卓の前の女性と蹄鉄》1928年 パリ、ル・コルビュジエ財団 ⓒFLC/ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018 B0365
    ル・コルビュジエ《「サヴォワ邸」習作スケッチ:各階平面図、室内パース、外観パース、俯瞰スケッチ》1928年 パリ、ル・コルビュジエ財団 ⓒFLC/ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018 B0365
    紙谷譲《「サヴォワ邸」1/50模型》2010年 大成建設株式会社
    国立西洋美術館 外観

    展覧会は国立西洋美術館の開館60周年と、ピュリスム誕生から100周年を記念した企画。ピュリスム時代のル・コルビュジエは、本名のシャルル=エドゥアール・ジャンヌレとして活動していました。


    ピュリスムを牽引したのが、画家のアメデ・オザンファン(1886-1966)。オザンファンとジャンヌレは、第一次大戦の終結直後の1918年12月にパリで絵画展を開催。著作「キュビスム以後」で、当時最先端だったキュビスムを、主観的で無秩序な芸術であると批判しました。


    ふたりは近代科学と機械の進歩を称賛し、社会の近代化に応える普遍的な表現として「ピュリスム」を提唱。幾何学的な規則に基づく構築的な絵画を追及し、独自の様式を確立していきます。


    1920年秋には、月刊誌「エスプリ・ヌーヴォー(新精神)」を創刊、「構築と総合」の啓蒙を目指しました。ジャンヌレはこの雑誌に建築論を発表し、この時に用いたペンネームが「ル・コルビュジエ」でした。



    ピュリスムの槍玉にあがったキュビスムは、20世紀の初頭に生まれました。第一次世界大戦中に一時衰えたものの、戦後、再び勢いを取り戻していました。


    オザンファンとジャンヌレは、ピカソ(1881年生)やブラック(1882年生)といった、少し上の世代が進めたキュビスムを批判していました。ただ、「幾何学的な秩序に支えられた芸術」という点で、キュビスムとピュリスムは同根といえます。


    戦後、ドイツ人画商が所有していたキュビスム絵画の競売に関わったジャンヌレ。ピカソ、ブラック、レジェらの作品に初めて接し、すでに彼らが「構築と統合」を実現していた事を理解したジャンヌレは、完全に考えを改めました。この経験は自身の絵画、そして建築にも大きな影響を与える事となります。


    「エスプリ・ヌーヴォー」誌での連載から、本格的に建築家としての道を歩み始めたジャンヌレ。1925年のパリ国際装飾芸術博覧会(アール・デコ博覧会)に出展したパビリオン「エスプリ・ヌーヴォー館」は、ピュリスムの記念碑的な作品です。博覧会のテーマである「装飾芸術」を真っ向から否定し、規格化と大量生産に基づいた生活環境を示しました。


    ただ、オザンファンとの関係は徐々に微妙になっていました。双方の不信感と競争心は徐々に拡大し、1925年に爆発。オザンファンは「エスプリ・ヌーヴォー」誌の編集から撤退し、ここにピュリスムは終焉を迎えました。


    知名度を上げたジャンヌレは支持を集め、1920年代後半には近代建築の第一人者としての名声を不動のものにします。


    一方で絵画は、1923年以降は展覧会への出展こそなくなりますが、絵画に対する興味を失ったわけではありません。むしろ、1927年頃からは午前中にデッサンと絵を描く事を日課にするなど、忙しい建築家の仕事の中でも、絵画の重要性を認識していました。


    1928年からは絵画の署名もル・コルビュジエに。自然の風景や女性像も描かれるようになり、「幾何学的な秩序」から「人間と自然の調和」に変わっていきました。コルビュジエの代表作「サヴォワ邸」にも、浴室の曲線や螺旋階段などに、絵画における変化を見る事ができます。


    会場の国立西洋美術館本館は、ル・コルビュジエが設計した3つの美術館のなかのひとつ。建築模型が展示されている1階の19世紀ホールから、スロープを上がった回廊状の2階で絵画などを見る流れです。ル・コルビュジエの思想を体感しながら、その原点といえる絵画を鑑賞できる、贅沢な展覧会です。


    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年2月18日 ]


    最新版 建築家ル・コルビュジエの教科書。最新版 建築家ル・コルビュジエの教科書。

    マガジンハウス(編集)

    マガジンハウス
    ¥ 1,350

    料金一般当日:1,600円
     → チケットのお求めはお出かけ前にicon

    会場
    会期
    2019年2月19日(火)~5月19日(日)
    会期終了
    開館時間
    9:30〜17:30
    金曜・土曜日 9:30〜20:00
    ※「カフェすいれん」以外のミュージアムショップ等の館内施設の営業は開室時間と同じ
    休館日
    月曜日(ただし3月25日、4月29日、5月6日は開館)、5月7日(火)
    住所
    東京都台東区上野公園7-7
    電話 03-5777-8600(ハローダイヤル)
    公式サイト https://lecorbusier2019.jp/
    料金
    一般 1,600(1,400)円 / 大学生 1,200(1,000)円 / 高校生 800(600)円

    ※( )内は前売券及び20名以上の団体料金
    ※中学生以下は無料
    ※心身に障害のある方と付添者1名は無料(入館の際に障害者手帳をご提示ください)。
    ※チケット販売:国立西洋美術館、展覧会ホームページ、主要プレイガイド、主要コンビニ店頭など。
    展覧会詳細 ル・コルビュジエ 絵画から建築へ ― ピュリスムの時代 詳細情報
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