大正・昭和に活躍し、流動感あふれる豪放な大作を残した日本画家・川端龍子(かわばたりゅうし)(1885~1966年)。
龍子は現実と向き合い格闘し、大衆に開かれた「健剛な会場芸術」を創り出しました。また作品を常時展示するため、自邸隣に自らの設計で龍子記念館を建設し、1963年に開館。筆者は開館以来、親しんでいます。1991年以降はその運営を大田区が引き継いでいます。
この大田区立龍子記念館で現在、刺激的な展覧会が開かれています。今をときめく4人の現代アーティストの作品と、龍子の代表作が並んで展示されているのです。現代アート作品は、日本屈指の現代アートコレクターである高橋龍太郎氏のコレクションから選ばれています。
精神科医である高橋氏は2000点以上の優れた日本の現代アートを収集し、国内外で紹介してこられました。本展監修は美術史家の山下裕二先生です。
コラボレーション企画展「川端龍子VS高橋龍太郎コレクション―会田誠・鴻池朋子・天明屋尚・山口晃―」入り口からの会場風景。
川端龍子の「香炉峰(こうろほう)」が圧巻。横7mを超す大画面一杯に描かれた飛行機、それがなんと半透明であること、スピード感、色彩の鮮やかさ。見入ってしまいました。これは日中戦争の際、龍子が軍の嘱託画家として偵察機に同乗した体験をもとに描かれ、パイロットは龍子の姿のようです。
会場風景。 川端龍子「香炉峰」1939年、大田区立龍子記念館蔵
美しく光る作品は、会田誠(あいだまこと)(1965年生まれ)の代表作「紐育空爆之図(にゅうようくくうばくのず)」(戦争画RETURNS)です。
∞を描いて編隊飛行する零戦に攻撃され、燃えさかるニューヨークの街並み。衝撃的です。この作品は、襖に日本経済新聞を貼った上に描かれ、加山又造「千羽鶴」、また「洛中洛外図屛風」からの引用がなされ、重層する問いを発しています。制作が「9.11」の5年前であることに驚かされました。

会場風景。 会田誠「紐育空爆之図」(戦争画RETURNS)、1996年、高橋龍太郎コレクション
龍子は洋画家として出発したのですが、1913年渡米しボストンで日本の古美術やピュヴィス・ド・シャヴァンヌの大壁画と出会い、帰国後28歳で日本画に転向。
横山大観らが設立した再興日本美術院で活躍しますが、芸術追求のため脱退。1929年、44歳で自らの美術団体・青龍社を創設し、その後の生涯36年間にわたり青龍社で精力的に活動しました。

会場風景。 川端龍子による1940年代の作品、大田区立龍子記念館蔵
川端龍子には子供への優しいまなざしを感じさせる作品もあります。鴻池朋子(こうのいけともこ)(1960年生まれ)の出品作は、物語性を持ち、心に突き刺さる不思議な魅力を放っています。

会場風景。 右は、川端龍子「百子図(ひゃくしず)」1949年、大田区立龍子記念館蔵。左は、鴻池朋子「ラ・プリマヴェーラ」2002年、高橋龍太郎コレクション
川端龍子の「源義経(ジンギスカン)」は、戦争中に内蒙古を取材して描いた作品。義経が生き延びて成吉思汗になったとの説が注目されていた頃です。中央に祈る伝説の主人公。ロマンあふれる世界です。

会場風景。 川端龍子「源義経(ジンギスカン)」1938年、大田区龍子記念館蔵
山口晃(やまぐちあきら)(1969年生まれ)のやまと絵のような作品は、油彩絵具で描かれています。「當卋(とうせい)おばか合戦」はよく見ると、現代人も混じり、武士がバイクに乗っていたり。画面の塗り残しは油彩画ならではのもの。山口は古典的な日本美術をベースに、あらゆる境界を融合してしまいます。

会場風景。 山口晃「當卋おばか合戦」1999年、高橋龍太郎コレクション。下は、川端龍子「逆説・生々流転」1959年 大田区立龍子記念館蔵

会場風景。 山口晃「當卋おばか合戦」部分、1999年、高橋龍太郎コレクション
川端龍子は篤い信仰心をもった画家でした。晩年には十一面観音像などを自邸の持仏堂に納め、礼拝を欠かしませんでした。「吾が持仏堂」はヴェネチア・ビエンナーレに出品した連作です。

会場風景。 左は、川端龍子旧蔵「十一面観音菩薩立像」奈良時代(8世紀)、大田区蔵(東京国立博物館寄託)。右は、川端龍子「吾が持仏堂 十一面観音」1958年、大田区立龍子記念館蔵
天明屋尚(てんみょうやひさし)(1966年生まれ)がアクリル絵具で描いた「ネオ千手観音」は、慈悲をもたらす仏の数多の手に武器が握られています。「9.11」の翌年の制作。天明屋は日本美術の古典的要素を用いて現代を表現する「ネオ日本画」を提唱しています。

会場風景。 天明屋尚「ネオ千手観音」、2002年、高橋龍太郎コレクション
会場では5人の作品が見事に響き合っています。是非ご覧ください!

大田区立龍子記念館の外観
[ 取材・撮影・文:泉 景舟 / 2021年9月3日 ]
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