

東山祇園に位置する両足院。京都府指定名勝である池泉廻遊式庭園では、初夏には半夏生が咲き誇り、その時期に合わせた特別公開期間(冬にも公開あり)には多くの人が集まります。その庭園に面した大書院に、現代美術作家・杉本博司さんが襖絵と掛け軸を制作。今月1日から14日まで初めて一般に公開されています。

8枚の襖絵「放電場」にピリッとした心地よい緊張感が走ります。雷が轟くさまは荘重とした空気を生み出し、森羅万象を肌に感じさせてくれます。

和紙にピグメントプリントされた襖絵は、細かな電流や光の部分などもくっきりと映し出されています。

襖絵の裏、西側から
東面は「放電場」、西面となる裏には唐紙(からかみ)で「雨」を表現しています。唐紙とは「型押し」という古典印刷技術で 版木を使い、手摺りで文様を写した紙のことを指し、大徳寺近くにある「かみ添」が制作しています。

引手にも注目
画像で気づかれたかもしれませんが、あえて斜めに表具し、引手は「大粒の雨」を見立てています。
現代的な襖絵ですが、表現されている自然現象は、人間にとっては太古から変わらないもの。自然と人間の普遍的な関係を改めて考えさせられつつ、この作品の深さに吸い込まれていきます。

「引手あまたなれど一歩引きて世を見ん 引き見てや昔はものを想はざりけり 天の嘆きや大粒の雨」襖には杉本さん直筆の歌

掛軸と「光学硝子五輪塔」

「光学硝子五輪塔」

部屋には2つの掛け軸「日々是荒日」「日々是口実」も飾られています。特に「荒日」についてはコロナ禍において揺れ動く今と終息の願いが込められてるとのこと。「日々是好日」をもじった言葉ですが、自然と日常を振り返り心に問いかけたくなるから不思議です。

約7年の構想を経て実現した大書院の襖絵。江戸末期に建てられた建造物と現代アートは見事に融合し、庭の赤松の枝ぶりさえ、雷のように見えてしまうほど。雨や曇り、朝夕など異なる時間や天候で変化する部屋の佇まいも味わってみたくなります。

2018年、両足院で始動したプロジェクト—RYOSOKU(大人にとっての智慧と慈悲の心を磨く場、感性と知性を研ぎ澄ます場を目指した両足院の文化プログラム)の一環として企画された本展。今後の活動にもぜひ注目していきたいです。

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※今回の特別公開は予約制となり残念ながら全日満席です。今後、1年に数回一般公開を予定されていますので、その時はぜひ。
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2021年11月2日 ]
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