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    レポート
    上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー
    京都国立近代美術館 | 京都府

    大胆な色遣い、観る者の気持ちを開放する飄々とした描線。2009年京都国立近代美術館で開催された「上野伊三郎+リチコレクション展 ウィーンから京都へ、建築から工芸へ」で初めて出会った「上野リチ」という女性がデザインしたテキスタイルや七宝焼きの小物入れに心が躍り、それ以来幾度となく図録を見返しては「彼女」との再会を心待ちにしていました。



    展示会場


    その上野リチ・リックスの世界初の大規模な包括的回顧展が同館で始まりました。国内外から集結したリチ、そして関連作家の作品約370件により、彼女のデザイン世界の全貌を見ることができます。



    (上段)スケッチブック4 1950年代 (下段)スケッチブック8 1950年代(左・中)1940年代(右)


    本展で、まずプロローグとしてリチのポートレートやスケッチブックなど彼女の姿を感じることのできる資料が紹介されています。1893年生まれなので、写真のスケッチブックは40歳後半~60歳頃でしょう。溢れるアイデアを一気に描き落としているかのようです。



    (左)上野リチ・リックス(巾着バック)/マティルデ・フレークル(テキスタイル) ビーズ巾着バック[裏地はウィーン工房テキスタイル:セヴィーリャ]1919-21年 MAKオーストリア応用芸術博物館、ウィーン(右)マリア・リカルツ=シュトラウス  巾着バック 1916年[製作:1919年]島根県立石見美術館



    作者不詳(ドレス)/上野リチ・リックス(テキスタイル) デイ・ドレス[ウィーン工房テキスタイル:ダヴォス]1920年頃[テキスタイル:1913-17年]京都服飾文化研究財団


    1912年リチはウィーン工芸学校に入学し、テキスタイルや七宝、彫刻を学ぶ一方、建築家のヨーゼフ・ホフマンのクラスで研究に励みます。卒業後はホフマンの誘いを受け、彼が設立したウィーン工房で働き始めます。デザイナー、フェリーツェ・[リチ]・リックス*の誕生です。

    第1章ではウィーン時代の彼女のテキスタイルデザイン、ウィーン工房の恩師や同僚デザイナーの作品を展示するとともにウィーン工房についての概要も紹介されています。



    リチの妹キティの作品 キティ・リックス 騎手と二頭の馬 1928年 個人蔵


    4人姉妹の長女であるリチ。末っ子のカタリーナ(愛称はキティ)もウィーン工房で活躍しており、キティの花瓶や陶作品も展示されています。化粧品ブランドを立ち上げた祖母、手芸品や礼装用小物の店を経営していた父をもつ彼女たちがこのような仕事をすることは自然の流れだったのでしょう。ちなみに次女は写真家、三女は裁縫師兼テキスタイルデザイナーだったそうです。



    ウィーン工房テキスタイル:クレムリン 1929年 島根県立石見美術館



    イースター用ボンボン容れのデザイン 1925-35年頃(2点共) 京都国立近代美術館蔵


    1900年前後のウィーンでは日本の美術・工芸が注目を集めていました。デザイナーであったリチもそれらの作品を通して日本という国に興味を持ったに違いありません。1924年ホフマンの建築事務所に在籍していた上野伊三郎と出会い、翌年結婚し京都に移ります。

    その一方定期的にウィーンを訪れ、ウィーン工房の一員として働きます。それは1930年の退職まで続きました。第2章では伊三郎との出会った頃のリチの仕事を展覧できます。



    プリント服地[野菜]1955年頃[再製作:1987年] 京都国立近代美術館蔵


    その後についての仕事は第3章で紹介されています。京都市染織試験場と群馬県工芸所の仕事を掛け持ちし、1944年まで主に日本占領下の外地への輸出用プリント生地などのデザインを手掛けました。戦時において外国人であるリチがこのような仕事に携わっていた事実には驚かされます。



    日生劇場旧レストラン「アクトレス」壁画(部分)1963年 京都市立芸術大学芸術資料館蔵


    晩年の代表作、日生劇場にある旧レストラン「アクトレス」の壁画も出展されています。村野藤吾から依頼を受けたものでアルミ箔を施した襖紙に色とりどりの花や鳥が描かれています。

    もし時間を戻すことができるなら……。この空間で食事と会話を楽しみたい、そんな空想が生まれます。



    スキー用刺繍手袋デザイン 1935-44年 京都国立近代美術館蔵


    本展では、何度もリチに驚かされました。1920年代に日本人と結婚し京都に移住。ウィーンと日本を行き来しながらの仕事や、戦時下でもデザインし続けた事実。時代や性別を思えば、彼女の芯の強さ、仕事に対する意欲、情熱はどれほどのものだったのかと敬服します。

    彼女のデザインを「かわいい」と一言で括るにはあまりにも忍びない。作品の奥にいる「リチ」を大いに感じてください。



    クラブみち代 内装デザイン 1961年 京都国立近代美術館蔵



    リチの鳥が出迎えてくれる


    *上野リチの結婚前の正式名はフェリーツェ・リックス。リチは愛称。


    [ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2021年11月15日 ]


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    会場
    京都国立近代美術館
    会期
    2021年11月16日(火)〜2022年1月16日(日)
    会期終了
    開館時間
    午前9時30分~午後5時
    金・土曜日は午後8時まで開館
    *入館は閉館の30分前まで
    *新型コロナウイルス感染拡大防止のため、開館時間は変更となる場合があります。
    来館前に最新情報をご確認ください。
    休館日
    月曜日および12月28日(火)~1月3日(月) *ただし1月10日(月・祝)は開館
    住所
    〒606-8344 京都府京都市左京区岡崎円勝寺町26-1
    電話 075-761-4111
    公式サイト https://lizzi.exhibit.jp/
    料金
    一般:1,700円(1,500円)
    大学生:1,100円(900円)
    高校生:600円(400円)
    ※( )内は20名以上の団体
    ※ 中学生以下は無料*。
    ※ 心身に障がいのある方と付添者1名は無料*。
    ※ 母子家庭・父子家庭の世帯員の方は無料*。
    *入館の際に証明できるものをご提示ください
    ※ 本料金でコレクション展もご覧いただけます。
    展覧会詳細 上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー 詳細情報
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