リニューアル工事で長期休館していた名古屋市美術館がオープンしました。 オープン展となる特別展「コレクションの20世紀」は、1901年から2000年までを10年ごとに区切り、約100点のコレクションで各時代の雰囲気をたどる展覧会です。

美術館入口
通常の名品コレクション展では、各作品を「エコール・ド・パリ」「メキシコ・ルネサンス」「現代の美術」「郷土の美術」のグループに分けて展示します。
本展では、作品をグループ分けせず、年代ごとに並べることで、世界と日本の同時代性を意識した視点で眺めることができます。
展示室にて
1900年代のコーナーには、洋画(油絵)に混じって、横山大観による海岸の風景を描いた日本画(軸)が2点並んでいます。当時、流入してきた洋画の影響を日本画に取り込んだ作品です。太陽と月が、ごく薄く、輪郭線なしで描かれていて、当時の人々が「朦朧(もうろう)」と呼んだように、とらえどころのない印象を受けます。
1910年代のコーナーでは、抽象作品と写実作品を見比べることができます。時代が進むと抽象作品の比率が高くなりますが、この時代では写実作品がまだ優勢だったようです。

会場風景 「1910年代」のコーナー
1920年代のコーナーには、「エコール・ド・パリ」の作品が並んでいます。普段は赤ワイン色の壁に掛けられているので、白色の壁面で見ると作品が軽やかに、新鮮に感じられます。 皆さんも地下の展示室の作品と見比べてみてください。
1930年代のコーナーに行くと、抽象作品が増えてきます。また、写真作品にも魅力的なものが出てきます。表現の多様さと言うよりも、「混沌(こんとん)」と言いたくなるような複雑さです。

会場風景 「1930年代」のコーナー

会場風景 「1930年代」のコーナー
1940年代から1950年代のコーナーでは、社会問題を取り上げた作品が目に留まるようになります。第2次世界大戦が終わり、社会が復興する中で発生した様々な出来事が、作品の中に色濃く記録されています。
このコーナーには、ユニークな作品が数多く並んでいます。中でも、芥川(間所)紗織の《神話より》は、細い棒を組み合わせた人体の描き方や、染色の技法で制作された画面の平坦さの点で群を抜いているように思います。

会場風景 「1950年代」のコーナー
1960年代のコーナーには、桑山忠明や、河原温に混じり、岩田信市の《ゼロ次元 3》が出ています。絵柄は単純ですが、強い色彩で存在感を発揮しています。
1970年代のコーナーでは、斎藤吾郎の強烈な赤色の作品に驚かされました。近くに寄ると、描かれた人物の表情や場面がわかります。この作家にとって、赤色へのこだわりが人一倍強いこともわかりますが、そのうえでなお、不気味で不思議な印象が強いです。

会場風景 「1970年代」のコーナー
1980年代になると、美術館以外にギャラリーでも個展やグループ展で見たことのある作家の作品が出てきます。
下の会場風景の写真を見てください。中央のウサギが飛び跳ねる先にあるのは、どうやら原っぱのようです。ユーモアのある作品配置になっていると思います。

会場風景 「1980年代」のコーナー
1980年代と1990年代のコーナーでは、女性作家の作品が目立っています。 極めつけは、草間彌生の《ピンク・ボート》です。展示室の中央に配置された《ピンク・ボート》は、1993年のヴェネチア・ビエンナーレに出品されたものだそうです。
強烈なピンクが、周りの作品を侵食しそうな雰囲気で横たわっています。しばらく見ていると、自分の足元から、ピンク色に染まりそうな錯覚がしてきます(作品に囲いがないので、触らないように注意)。

会場風景 「1990年代」のコーナー
訪問当日は、朝から雨だったのですが、展示室内は比較的若い来館者で程よく込み合っていました。また、リニューアルで展示室の照明が改善されたこともあり、作品が見やすくなったように思いました。
特集 開館35周年事業 猛獣画廊壁画修復プロジェクト
地下の展示室では、第2次世界大戦後すぐに東山動物園で展示されていた動物の壁画の修復が行われています。様々な経緯で、1997年に名古屋市美術館の所蔵となったこれらの壁画は、年末までに修復され、公開される予定です。

猛獣画廊壁画修復プロジェクトの様子
なお、修復作業は公開でおこなわれており、見学することができます。
美術作品の保存に興味のある方は、見学してみてはいかがでしょうか(作業公開日など詳細は、名古屋市美術館HPの「東山動物園猛獣画廊壁画修復プロジェクト」参照)。
*会場内の写真は、特別に許可を得て撮影しています。
[ 取材・撮影・文:ひろ.すぎやま / 2023年4月15日 ]
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