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    レポート
    111年目の再発見:編集者・中原淳一の軌跡をたどる(レポート)
    渋谷区立松濤美術館 | 東京都
    戦前から戦後まで活躍したマルチクリエイターの草分け、中原淳一の展覧会
    編集者としての活動に注目。ファッションや髪型、住居などで「美」を啓蒙
    『少女の友』『それいゆ』『ひまわり』など雑誌や自らがデザインした服も

    イラストレーション、雑誌編集、ファッションデザイン、インテリアデザインなど、戦前から戦後にかけて多彩な分野で才能を発揮した中原淳一(1913-1983年)。今年で生誕111年となりました

    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」では、主に編集者としての活動に焦点を当て、中原が目指した「美しい暮らし」への思いを紐解いていきます。


    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景
    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景


    1932年に自身の人形展の記事が『少女の友』に掲載されたことから、同誌の専属画家になった中原。

    1935年から5年間、同誌の表紙絵を担当し、大きな瞳で物憂げな表情の少女の絵は、読者の少女たちから熱狂的に支持されました。


    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景 『少女の友』1935-1940年 個人蔵
    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景 『少女の友』1935-1940年 個人蔵


    当初は画家として『少女の友』にかかわっていた中原ですが、やがて付録の企画なども手がけるように。編集者・中原淳一の誕生です。

    「女学生服装帖」は『少女の友』に1937年5月号から1940年5月号まで連載された、少女の服装やみだしなみにまつわるエッセイです。こちらも好評でしたが、戦時色が強まると、中原が描く少女は「華美で不健康」とされ、同誌を去ることになります。


    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景 「女学生服装帖」1937-1940年 個人蔵
    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景 「女学生服装帖」1937-1940年 個人蔵


    中原は終戦翌年の1946年に『ソレイユ』を創刊(後に『それいゆ』と改名)。通常の暮らしを営むことも困難だった時代ですが、「美しい暮らし」のために、誌上でファッション、インテリア、手芸などでさまざまな提案を行いました。

    読者が衣食住を知性でコントロールすることで、自分らしい「美しい暮らし」ができると信じていた中原。『それいゆ』は、中原が病に倒れる1960年まで刊行されています。


    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景 『それいゆ』1946-1960年 個人蔵
    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景 『それいゆ』1946-1960年 個人蔵


    中原は1953年頃から、スタイル画として描いていた服を実際に制作し、写真に撮って雑誌に載せるようになりました。

    会場では、撮影のために制作されたスカートが紹介されています。パッチワークやアップリケを施したり、使いやすいフェルトを用いたりと、中原ならではの提案が見られます。


    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景
    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景


    中原は洋服だけでなく和装にも関心を寄せており、『それいゆ』で「新しいキモノ」を提案。ここでもアップリケやパッチワークなど、洋服のデザインに好んで用いた技法を使った着物が次々と掲載されました。


    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景
    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景


    1947年に創刊された月刊誌『ひまわり』は、中原が『それいゆ』と同様に力を注いで制作した雑誌です。子どもでも大人でもない「少女」を対象に、最新スタイルや着こなし、小物選びなどを解説しました。

    一方で、名作文学なども掲載していたことは特徴的です。中原は、少女たちの美しさのために、文学や教養も重要と考えていたことがわかります。


    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景 『ひまわり』1942-1952年 個人蔵
    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景 『ひまわり』1942-1952年 個人蔵


    中原は1939年に最初の店「ヒマワリ」を開店し、封筒、便箋、手帳などの文房具類を販売。戦後のひまわり社では、ナプキンやコースター、コップ、化粧品類など、商品の幅が拡大しました。

    コップや湯のみには少女のイラストが描かれており、現在のキャラクターグッズのはしりといえそうです。


    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景 ひまわり社の雑貨 個人蔵
    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景 ひまわり社の雑貨 個人蔵


    1951年から1年あまり中原がパリに滞在する間に雑誌が不振になり『ひまわり』は廃刊に。代わって1954年に創刊されたのが『ジュニアそれいゆ』でした。

    アメリカで人気を博していた雑誌『セブンティーン』を意識したこの雑誌では、写真のページを大幅に増やし、中原がデザインした服が型紙とともに多数紹介されました。


    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景 『ジュニアそれいゆ』1955-1959年 個人蔵
    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景 『ジュニアそれいゆ』1955-1959年 個人蔵


    冒頭でも少しふれたように、中原のキャリアは人形作家から。1920年代後半に、都市部に住む中間層の女性のあいだで、手芸として人形をつくることが流行し、中原もその流れから人形を手掛けはじめたと思われます。

    19歳のときに趣味で制作したフランス人形が評判となり、1932年に松屋銀座で人形展を開催。過労で倒れ療養生活に入った1960年代も、身近な材料から男性の人形を制作しています。


    渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場より 《人形》1967年 個人蔵
    《人形》1967年 個人蔵


    現在でいうところのマルチクリエイターとして幅広く活動した中原。戦前・戦中・戦後と大きく時代が変わるなか、ファッション、ヘアスタイル、インテリアなど目に見えるものはもとより、教養などの内面も含めて、一般の人々にあらゆる「美」を広めていきました。

    館内全体で中原淳一ならではの世界に浸れる展覧会です。8月4日(日)までの前期と8月6日(火)からの後期で、一部展示替えがあります。

    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2024年6月28日 ]

    『少女の友』の付録 1934-1940年 個人蔵 渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景
    「ひまわり・らいぶらりい」1947-1948年 個人蔵 渋谷区立松濤美術館「111年目の中原淳一」会場風景
    『ひまわり』の付録 1949-1950年 個人蔵
    《裏表紙原画》(『きものノ絵本』)1940年 個人蔵
    《筒を着る》『それいゆ』第28号原画 1953年 個人蔵
    《蝶々夫人》(絶筆)1976年 個人蔵
    会場
    渋谷区立松濤美術館
    会期
    2024年6月29日(土)〜9月1日(日)
    開催中[あと38日]
    開館時間
    特別展期間中:午前10時~午後6時(金曜のみ午後8時まで)
    公募展・小中学生絵画展・サロン展期間中:午前9時~午後5時
    最終入館はいずれも閉館30分前までです。
    休館日
    月曜日(ただし7月15日、8月12日は開館)、7月16日(火)、8月13日(火)
    住所
    〒150-0046 東京都渋谷区松濤2-14-14
    電話 03-3465-9421
    公式サイト https://shoto-museum.jp/
    料金
    一般1000円(800円)
    大学生800円(640円)
    高校生・60歳以上500円(400円)
    小中学生100円(80円)
    ※( )内は団体10名以上及び渋谷区民の入館料
    ※土・日曜日、祝・休日及び夏休み期間は小中学生無料
    ※毎週金曜日は渋谷区民無料 
    ※障がい者及び付き添いの方1名は無料
    ※入館料のお支払いは現金または渋谷区キャッシュレス決済アプリ「ハチペイ」のみとなっております。
    展覧会詳細 111年目の中原淳一 詳細情報
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