1960年代、アーティストの卵は、次々とニューヨークへ旅立ちました。
現代美術の新しい流れ、ポップアートに取り組み、多くの作品を残した後藤克芳もその一人。
米沢から世界へ、そして日本へ・・・後藤作品の際立つ特徴とともに紹介します。
スーパーリアリズム
最大の特徴は、完成度の高さ。
木材を利用して制作をしていますが、木材であることを忘れさせる質感です。
後藤克芳 Duco CEMENT 1980 米沢市上杉博物館蔵
ボディはアメリカでポピュラーな接着剤「デュコセメント」。安価で接着強度も良好、後藤もよく使ったと考えられます。
後藤作品の特徴は、ディティールにこだわること。
パッケージの表面に、接着剤のノリが糸をひいて固まった状態に注目。また日常の素材に目を向けて、作品を制作しています。
木材で様々な質感を表現
後藤克芳 NY SUNDAY 1987 米沢市上杉博物館蔵
ゴムにしか見えない靴底は木でできています。
踵のカーブの部分は、桶を作るように細い板を組み合わせ削って丸みを出しました。底に張り付いた新聞も超リアル。
後藤克芳 NY SUNDAY(一部) 1987 米沢市上杉博物館蔵
はりついた新聞紙は、薄い木で作られ、薄くはげかかった部分は絵の具で再現しました。漫画「PEANUTS」に登場するルーシー、印刷の網点は描かれたものです。
後藤の種 後藤が制作のヒントにした題材
この靴底は、実際にニューヨークの街を歩き回ったものです。
2階の「後藤の種」としてガラスケースの中に実物が展示されています。
細部に至るまで再現された緻密さを、ぜひ、比べてみて下さい。後藤の執着ぶりを窺わせます。
平面から半立体へ
正面から見ると、迷彩柄の帽子のように見えます。
後藤克芳 untitled 1978 米沢市上杉博物館蔵
ところが近づいてみると、それは立体となり、カエルが浮かびあがります。
後藤克芳 untitled(一部) 1978 米沢市上杉博物館蔵
完璧なものを傷つけつつも・・・
後藤克芳 LOVE LOCK 1989 米沢市上杉博物館蔵
世界には愛の南京錠がぶら下がる名所があります。
しかしこのようなラブリーなハート型をしたものはないはずです。よく見るとこのハート、左上部に殴られたようなへこみがあります。
また、錠前を外そうと、バーナーで焼いたような黒焦げのあとも・・・
鍵穴も、変質したあとが見られます。
後藤克芳 LOVE LOCK(一部)1989 米沢市上杉博物館蔵
後藤作品は、完璧なものに傷加工をするという特徴が見られます。
しかし、この南京錠は、この愛をこわそうとしても、壊れなかったという物語が見えます。 傷つけようとしても、傷つけられないという意味が含まれているようです。
ハートの柄は、夫人の洋服の柄を取り入れています。
後藤の原点
(左)後藤克芳 青の静物 1959 米沢市上杉博物館蔵 (右)後藤克芳 高橋与一先生像1962 米沢市上杉博物館蔵
郷里米沢にいたころの作品です。
左は、武蔵野美術学校時代の油絵。時代の動向をふまえ、抽象画も描いていました。一方、右は写実的な肖像画です。渡米費用をためるために肖像画を描いて頒布会を行いました。
本来は具象を得意としており、スーパーリアリズムへの痕跡が窺えます。
後藤克芳 山湖の秋 1962 個人蔵
米沢の自然豊かな景色。木材を中心とした作品作りや、色彩感覚を育んだことが窺えます。
ポップでキッチュ、それでいて几帳面な仕上げ。
一瞬、一瞬をアートする後藤の作品は、鑑賞者に意味を求めて欲しくないと言います。 何も考えず、アートを楽しむ。そのための新しい造形を生み出しました。
後藤の業績を一望できる展覧会。東京初の回顧展です。
[ 取材・撮影・文:コロコロ / 2020年10月2日 ]
読者レポーター募集中!あなたの目線でミュージアムや展覧会をレポートしてみませんか?