「こんぴら船々 追い手に帆かけて シュラシュシュシュ…」の民謡でも知られる、香川県の金刀比羅宮。古くからお伊勢まいりと共に「一生に一度はお参りしたい社」とされ、庶民が憧れる社でした。
金刀比羅宮の至宝を紹介する本展。これだけの数がまとまって香川を離れるのは、平成20(2008)年にパリ・国立ギメ美術館で開催された「こんぴらさん 海の聖域展」以来7年ぶりとなります。
展覧会最大の見どころが、円山応挙による襖絵。表書院の6室のうち4室に円山応挙が障壁画を描いており、その中から本展には「鶴の間」「虎の間」「七賢の間」の3室の襖絵、計20面が出品されています。
会場における3室のレイアウトは、金刀比羅宮と同じ。しかも、に襖絵の前に畳が無いので、至近距離での鑑賞が可能です(金刀比羅宮では回廊からの観覧なので、少し離れた地点になります)。
涼やかな立ち姿と舞い降りる姿でリズム感を出した鶴、威圧的なスタイルながら丸々とした体躯はどこかユーモラスな虎、細かな表情の描写が冴える七賢。部屋の中心部から見まわすと(これも、金刀比羅宮では畳に上がれないので不可能です)、空間に対しての応挙の意図を深く感じる事ができます。
また、少し意外に思えるのが、高橋由一の作品。高橋由一は明治12(1879)年に行われた「第2回琴平博覧会」に作品37点を出品。うち35点を奉納する事で、金刀比羅宮は由一の画塾「天絵社」へ資金を援助したのです。
現在所有しているのは、由一の現存作品の約3分の1にあたる27点。本展には静物画を中心に8点が出品されています。未知の技術だった油絵に懸命に取り組んだ由一、作品からは技術を超えた執念が滲み出ています。
ちなみに「第2回琴平博覧会」は約3カ月の会期で、26.5万人を動員。当時は陸路は徒歩だった事を思うと、驚異的な人気です。
他にも若冲が多様な花を描いた香川県指定有形文化財《花丸図》、探幽・尚信・安信の探幽3兄弟が12面づつ担当した《三十六歌仙額》、蹴鞠の屏風など(金刀比羅宮は現在でま蹴鞠が行われている数少ない神社のひとつです)、見どころはたくさん。会場各所にある、小さなトピックを紹介する「こんぴら狗のワン!ポイントガイド」も楽しい試みです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年5月21日 ]