2002年、2006年、
2011年、
2015年と、数年おきに開催されているプラド美術館展。質の高い作品は、いつも日本の美術ファンの話題となり、累計で180万人以上がスペイン王家ゆかりの美を堪能しています。
今回はプラド美術館の核といえるベラスケスを中心に据えた企画で、1章「芸術」から。17世紀スペイン絵画の特徴のひとつが、芸術家や芸術作品をモチーフにした絵画。ベラスケスによる《フアン・マルティネス・モンタニェースの肖像》も、制作中の彫刻家を描いた作品です。
2章「知識」では《メニッポス》に注目。古代ギリシアの大哲学者ですが、ベラスケスは外套を羽織った貧しい老人として描きました。高尚な精神と世俗の富は相容れません。
3章は「神話」。17世紀スペインはカトリック圏のため、神話画における裸体の表現はご法度。ただ、王宮や貴族の邸宅には裸体画ばかりを集めた部屋があり、特定の人は鑑賞が許されていました。《音楽にくつろぐヴィーナス》は、ティツィアーノならではの官能的な表現が光ります。
1章「芸術」、2章「知識」、3章「神話」4章「宮廷」の冒頭にある作品が、ベラスケスによる《狩猟服姿のフェリペ4世》。ベラスケスはフェリペ4世の信頼を得て、側近として重用されました。アゴが出ている王の顔貌は、ハプスブルク家の象徴ともいえます。よく見ると、描き直しの跡も各所に確認できます。
5章は「風景」。17世紀スペインでは、風景画は劣勢でしたが、他の地域からの流通もあり、徐々にその環境は整ってきました。展覧会メインビジュアルの《王太子バルタサール・カルロス騎馬像》は、この章に登場。愛らしい王太子が印象的ですが、背後には山並みが写実的に描かれています。
4章「宮廷」、5章「風景」6章の「静物」が絵画ジャンルとして定着したのは、1600年頃から。最近、展覧会で紹介される事が多いヤン・ブリューゲル(父)の花卉画も、典型的な静物画の作例です。スペインの静物画は「ボデゴン」と呼ばれます。
7章は「宗教」。宗教改革によって興隆したといえる、宗教画。偶像崇拝を否定するプロテスタントに対し、カトリックは聖像の崇敬を擁護。宗教主題を現実的に解釈した写実的な絵画が、次々に生まれたのです。スペイン絵画をはじめ、フランドルのルーベンス、イタリアのグイド・レーニらも含め、カトリック圏の作品が並びます。
また「芸術理論」というテーマでは、美術理論書のオリジナル初版本などが、1~7章内の各所で、関連する絵画作品とともに紹介されています。
6章「静物」、7章「宗教」写真と動画をご覧いただければ分かるように大きな作品も多く、重量感あふれる展覧会。国立西洋美術館の雰囲気にもピッタリはまっていて、いかにも「美術展を見た」という、充実のひとときを味わえると思います。
東京展は5月27日まで。続いて兵庫県立美術館に巡回します(6月13日~10月14日)。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年2月23日 ]■プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光 に関するツイート