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    レポート
    起点としての80年代
    静岡市美術館 | 静岡県
    現代への萌芽
    「具体」が活躍した60年代。「もの派」に代表される70年代。では、80年代は? いまだ歴史化されていなかった80年代の日本の現代美術を検証する動きが、ここにきて見え始めました。この時代の美術を現代につながる「起点」として捉えた展覧会が、静岡市美術館で開催中です。
    (左手前から)中原浩大《金碗》1985 高松市美術館 / 中原浩大《夢殿》2014-2018(オリジナル1984) 作家蔵 [写真提供:静岡市美術館]
    (手前)戸谷成雄《「《彫る》から」搭状のもの》1982 MTMコレクション / (奥壁面、左から)岡﨑乾二郎《そとかんだ》1981 高松市美術館 / 岡﨑乾二郎《のがた》1981 高松市美術館 / 岡﨑乾二郎《たまち》1981 高松市美術館 / 岡﨑乾二郎《かっぱばし》1981 個人蔵 / 岡﨑乾二郎《あかさかみつけ》1981 高松市美術館
    (奥、左から)諏訪直樹《波濤図 No.2》1980 / 諏訪直樹《波濤図 No.1》1980 ともに三重県立美術館 / (右手前)戸谷成雄《中庭Ⅱ》1990 高松市美術館
    (左から)日比野克彦《TYPEWRITER》1983 作家蔵 / 日比野克彦《PANTS》1983 岐阜県美術館 / 日比野克彦《SWEATY JACKET》1982 岐阜県美術館
    (左から)舟越桂《冬の本》1988 / 舟越桂《森へ行く日》1984 ともに作家蔵
    藤本由紀夫《HERMETIC SCALE(DIAMETER)》1988 作家蔵
    森村泰昌《肖像(泉1,2,3)》1986-90 高松市美術館
    横尾忠則《うまい作り話》1982 高松市美術館
    (左奥から)大竹伸朗《網膜 #39(投げ縄)》1990-91 高松市美術館 / 大竹伸朗《網膜 #9(ブラウン・ヘッド)》1988-90 セゾン現代美術館 / 大竹伸朗《家系図》1986-88 セゾン現代美術館

    バブル景気に向けた消費社会の若々しさの中で、美術の世界でも、それまで主流だった禁欲的な表現が一気に弾けた80年代。ただ、その方向性はあまりにも多彩で、80年代美術を塊としてとらえる動きは少なかったように思われます。


    本展は80年代の表現を、現在の視点で見つめ直すもの。今日の美術につながる事象を4章構成で捉え、懐古的ではなく、80年代美術の意義を検証していきます。


    エントランスに鎮座するのは、中原浩大による巨大な彫刻《夢殿》。荒々しい油土のテクスチャは、中原が現地で仕上げました(オリジナルは1984年)。


    1章は「メディウムを巡って」。思想や理念が先行していた前の時代に対し、「絵画・彫刻の復権」が謳われた80年代。もちろん、そのまま伝統に戻るのではなく、新たな表現が模索されました。この章はエントランスの中原浩大のほか、岡﨑乾二郎、諏訪直樹、辰野登恵子、戸谷成雄、中村一美の作品が並びます。


    2章は「日常とひそやかさ」。「美術」に代わり「アート」という言葉が広まったこの時代。日比野克彦の段ボール作品は、日常にアートが溶け込むようになった80年代を象徴しています。一方でバブル景気と相対するように、ひそやかな感性に根差した作品も。舟越桂の半身像が象徴的です。この章は日比野、舟越の他に、今村源、杉山知子、吉澤美香です。



    3章は「関係性」。現代アートにおいて、表現に観客が関わる「リレーショナル・アート」は、あたり前になりましたが、その萌芽は80年代に見出せます。川俣正のプロジェクトは、アートと社会を結び付ける先駆的な試みといえるでしょう。この章は他に、宮島達男、藤本由紀夫、松井智惠です。


    4章は「記憶・アーカイヴ・物語」。モダニズムが否定した「物語性」を取り戻すのは、この時代の美術の関心事の一つ。欧米では新表現主義/ニュー・ペインティングの動きがありました。個人を作品に取り入れた顕著な例が、セルフポートレートの森村泰昌。画家へ転向した横尾忠則も、個人的な記憶をモチーフにしています。この章は他に、石原友明、大竹伸朗です。


    この項では、昨年12月~今年1月に国立国際美術館で開催されていた「ニュー・ウェイブ 現代美術の80年代」もご紹介しましたが、巡回展である本展のほうがスタートは先。昨年7月に金沢21世紀美術館で開幕、高松市美術館を経て、静岡市美術館が最終会場です。


    現在でも活躍中の作家も多く、各々の若い頃の作品展という側面でもお楽しみいただけます。東京には巡回しませんので、ご注意ください。


    1980年代生まれの人は800円で観覧できる「80年代割引」や、ほぼ同時期に静岡県立美術館で開催される「1968年 激動の時代の芸術」展(2/10~3/24)との相互割引も実施中です。


    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年1月8日 ]


    起点としての80年代起点としての80年代

    金沢21世紀美術館(編集),高松市美術館(編集),静岡市美術館(編集)

    My Book Service Inc.
    ¥ 3,510

    料金一般当日:1,100円 ほか
    ※1980~1989年生まれの方は800円
     → チケットのお求めはお出かけ前にicon

    会場
    会期
    2019年1月5日(土)~3月24日(日)
    会期終了
    開館時間
    10:00~19:00(展示室入場は閉館30分前まで)
    休館日
    月曜日(ただし1月14日、2月11日、は開館)、1月15日、2月12日
    住所
    静岡県静岡市葵区紺屋町17-1葵タワー3階
    電話 054-273-1515
    公式サイト http://www.shizubi.jp/
    料金
    一般 1,100(900)円 / 高校・大学生 ・70歳以上 700(500)円 / 中学生以下無料

    ※ ( )内は前売および20名以上の団体料金(団体は来館当日に限り購入可能)
    ※ 障がい者手帳等をご持参の方および介助者原則1名は無料
    展覧会詳細 起点としての80年代 詳細情報
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