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    レポート
    小原古邨
    太田記念美術館 | 東京都
    没後70余年、ついにブレイクか
    展覧会がきっかけで、忘れられていた画家に光が当たる事はしばしばあります。小原古邨(おはらこそん:1877~1945)は、間違いなくそのひとり。とても版画とは思えない微妙な色彩の花鳥画を中心に、全150点を紹介する東京初の展覧会が、太田記念美術館で開催中です。
    (左から)《柿に目白》 / 《枝垂れ桜に燕・山茶花に四十雀・蓮に鷭》
    (左から)《鶏とひよこ》 / 《雪に真鴨》
    (左から)《月に真鴨》 / 《月に雁》
    (左から)《雨中の桐に雀》 / 《雨中の雉》
    (左から)《雪の柳に烏》 / 《雪の梅に雀》
    (左から)《松に鹿》 / 《踊る狐》
    (左から)《蓮に蛙》 / 《朝顔と玉蜀黍に蜻蛉》
    (左から)《月夜の桜(試摺)》 / 《月夜の桜》
    (左から)《紫陽花の蜂》 / 《蔦に四十雀》

    突然、古邨にスポットライトが当たったのは、昨年、茅ヶ崎市美術館で開催された「小原古邨展 花と鳥のエデン」から。開幕当時はそれほどでもありませんでしたが、10月にNHKの日曜美術館で紹介された事で、注目されるようになりました。


    とはいえ、無名だったわけではありません。海外では展覧会の開催、カタログレゾネ(総作品目録)の制作、書籍刊行と研究が先行する中、ようやく日本が進みだした、ともいえます。


    明治10年(1877)、金沢で生まれた古邨。もとは日本画家で、鈴木華邨に師事しました。展覧会にもしばしば出品しますが、評価はそこそこ。活動の場として見出したのが木版画でした。逆に、日本画家としての評価がもっと高ければ、今につながる古邨はいなかったわけです。


    明治期に古邨の版元だったのは、秋山武右衛門(滑稽堂)と松本平吉(大黒屋)。明治期は淡い色調で、安定した構図の作品を数多く制作し、おもに海外からの観光客を中心に販売されていました。



    作品を見てまず感じるのが、水彩画のように繊細な色合い。言われなければ、木版画とは思えないほどです。


    そもそも一般的な浮世絵版画では、絵師は墨で輪郭線を描きますが、古邨の画稿は絹本に肉筆で描画します。つまり、画稿とはいえ日本画とほとんど変わりません。


    画稿を版下絵にするのは、当時広まっていた湿板写真です。古邨の画稿は版画よりかなり大きいですが、写真ならサイズ変更も容易。画稿そっくりに作るため、彫師・摺師も技術を駆使し、極めて精度が高い版画を出版していきました。


    滑稽堂、大黒屋ともに明治末には衰退したため、大正元年頃には肉筆画に戻りますが、昭和に入ると再び版画の道に。この時期の版元は、輸出向けの木版画「新版画」を牽引した渡邉庄三郎(渡邉版画店)です。


    美人画の橋口五葉、風景画の川瀬巴水らを擁していた庄三郎。海外に人気が高い花鳥画を描ける名手として、明治期からの実績がある古邨はうってつけの人材でした。昭和期の作品は、色彩も華やかになります。


    会場には画稿や試摺も展示されています。《月夜の桜》を見ると、画稿と試摺は赤紫色ですが、完成品は桜の木全体を藍一色にする事で、よりドラマチックに。マーケットを熟知した庄三郎の戦略が伺えます。


    古邨の展覧会は、茅ヶ崎での紹介以前は、1998年に平木浮世絵美術館で開催されたぐらい。新版画を特集した展覧会でも、風景画が中心になる事が多かったため、花鳥画の古邨は埋もれがちでした。まさにブーム直前といえる古邨の全貌を、じっくりとお楽しみください。


    展覧会は前後期で全点が展示替えされます(前期:2/1~2/24、後期:3/1~3/24)。


    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年1月31日 ]


    小原古邨 花咲き鳥歌う紙上の楽園小原古邨 花咲き鳥歌う紙上の楽園

    太田記念美術館(監修),日野原健司(著)

    東京美術
    ¥ 2,484

    会場
    会期
    2019年2月1日(金)~3月24日(日)
    会期終了
    開館時間
    10:30~17:30(入館17:00まで)
    休館日
    2月4日、12日、18日、25~28日、3月4日、11日、18日
    住所
    東京都渋谷区神宮前1-10-10
    電話 03-5777-8600
    公式サイト http://www.ukiyoe-ota-muse.jp/
    料金
    一般 700円 / 大高生 500円 / 中学生以下 無料
    展覧会詳細 小原古邨 詳細情報
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