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    レポート
    澄川喜一 そりとむくり
    横浜美術館 | 神奈川県
    素材の本質を生かすかたち
    戦後日本の抽象彫刻を牽引してきた澄川喜一(1931-)。初期の具象彫刻から抽象彫刻へ、さらに東京スカイツリー®のデザイン監修など公共の大規模プロジェクトも含め、60年以上にわたって第一線で活動を続けています。首都圏の公立美術館では初めての大規模展が、横浜美術館で開催中です。
    横浜美術館「澄川喜一 そりとむくり」会場風景
    (左から)澄川喜一《裸婦》1958 / 澄川喜一《裸婦》1958 作家蔵 ©Sumikawa Kiichi
    (左から)澄川喜一《MASK》1967 山口県立美術館 / 澄川喜一《MASK Ⅵ》1967 神奈川県立近代美術館 ©Sumikawa Kiichi
    澄川喜一《木の群れ》1992 島根県立美術館 ©Sumikawa Kiichi
    (右手前)澄川喜一《MASK》1982 作家蔵(島根県立石見美術館寄託) ©Sumikawa Kiichi
    澄川喜一《そりのあるかたち-1》1978 東京都現代美術館 ©Sumikawa Kiichi
    澄川喜一《そりのあるかたち 97-4》1997 東京藝術大学 ©Sumikawa Kiichi
    澄川喜一《そりのあるかたち》2019 作家蔵 ©Sumikawa Kiichi
    内覧会にて、澄川喜一

    本展でも新作を発表するなど、精力的に創作を続ける澄川喜一。活動の全貌を網羅する本展では、約100点の作品・資料が展示されています。


    会場の入り口は、岩国の錦帯橋の模型から。実はこの歴史的名勝は、澄川の創作の原点でもあります。


    澄川は島根県鹿足郡六日市町(現・吉賀町)生まれ。山口県立岩国工業学校機械科(旧制)に進み、約6年間を岩国で過ごしました。


    澄川はこの橋を愛し、何度もスケッチに描いたほど。1950年の台風で流出した時も現場で見ており、大きな衝撃を受けると同時に、現代美術に転生したようなさまにも魅せられました。錦帯橋への関心は、後の造形活動にも生かされていきます。


    東京藝術大学彫刻科では木彫の巨匠・平櫛田中と塑造の第一人者・菊池一雄のもとで研鑽。1958年、27歳で新制作展に初出展。当初は具象彫刻を手掛けていました。ちなみに、現在でも新制作展に発表し続けています。


    1960年頃から抽象への志向を強め、1961年にはアトリエの庭に穴を掘って、過去の具象彫刻や石膏原型を廃棄。本格的に抽象の道に進みます。



    60年代半ば、具象から抽象への転換期に制作したのが「MASK」シリーズです。アフリカの仮面や日本の甲冑、岩見神楽の能楽面などから着想し、美術評論家の土方定一や彫刻家のイサム・ノグチが高く評価しました。


    1967年には藝大彫刻科の講師に。木や石などの自然素材や、ステンレスなど金属素材と向き合う中で、創作の幅を広げていきます。


    澄川の仕事の中で特筆されるのが、公共空間における造形です。会場の地図で所在一覧が示されていますが、北海道から鹿児島まで、ほとんどの都道府県に澄川作品が。横浜市内でも万里橋や一本橋など、多くの公共造形物を手掛けています。


    澄川は、東京スカイツリー®のデザインも監修しました。日本の伝統的な造形に息づく曲線である「そり(反り)」と「むくり(起り)」が取り入れられているため、方向によっては非対称に見えます。


    会場後半は、澄川が40余年にわたって追及し続けている「そりのあるかたち」です。1979年に《そりのあるかたち-1》が平櫛田中賞を受賞し、創作の方向性に確信を得た澄川は、木の性質と向き合い、素材の本質を生かした形を次々に生み出していく事となります。


    現在まで続く「そりのあるかたち」シリーズですが、その姿は変化し続けています。水平方向に広がるもの、小さな木片でリズムをとっているもの、天に向かって伸びていくもの、等々。材料も木とはいえ、欅、樟、檜、槐、松、一位(櫟)、黒檀、チークなど、実に多彩。木の性質を自分のイメージにあわせて、創作を続けています。


    会期中の5月2日(土)には89歳を迎える澄川喜一。誕生日のこの日に、作家自らが作品や展覧会について語るギャラリートークが開催されます。現役の作家と触れ合える貴重な機会、事前申込不要です。


    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年2月14日 ]


    澄川喜一 そりとむくり澄川喜一 そりとむくり

     

    求龍堂
    ¥ 3,300

    会場
    会期
    2020年2月15日(土)~5月24日(日)
    会期終了
    開館時間
    10:00~18:00
    (入館は閉館の30分前まで)
    休館日
    木曜日
    住所
    神奈川県横浜市西区みなとみらい3-4-1
    電話 045-221-0300
    公式サイト https://yokohama.art.museum/special/2020/sumikawakiichi/
    料金
    一般 1,500(1,400)円 / 大学・高校生 900(800)円 / 中学生 600(500)円 / 小学生以下無料 / 65歳以上 1,400円(要証明書、美術館発券所のみで対応)

    ※()内は20名以上の団体料金
    展覧会詳細 澄川喜一 そりとむくり 詳細情報
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