根津美術館が創立80周年を迎え、節目の年に華を添えるような特別展を開催しています。
奇しくも、文化財保護法制定からは70年目であり、コレクションの基礎を築いた初代根津嘉一郎の生誕160年も重なっています。
本展では、文化財指定を受けた国宝7件、重要文化財88件の計95件すべてが、惜しげもなく一堂に介します。しかも、初代嘉一郎の購入後に指定を受けているものがほとんどだそうで、独学で身につけたという目利きの確かさに驚きます。
展示は、『国宝及び重要文化財指定基準』に定められた部門のうち、絵画・彫刻の部、考古資料の部、書跡、典籍の部、工芸品の部に沿って構成されています。
また、部門ごとの指定基準が掲示されています。美術館などで「国宝」と謳われていても、なぜこれが?と不思議に思うことがあったのですが、文化史や歴史的に有意義であること、貴重性などが基準であると知り、納得しました。
根津美術館の顔の1つといえば「燕子花図屏風」(展示期間:12月1日~13日)ですが、今年9月に重要文化財に指定されたばかりの「夏秋渓流図屏風」(展示期間:11月14日~29日)もまた見事な屏風です。

重要文化財〈夏秋渓流図屏風〉鈴木其一 江戸時代 19世紀
絵の具の凹凸で表現された一枚一枚の葉や苔などの写実性と、熊笹や水流のように単純化されたデザイン性とのギャップが混在しています。
渓流の水が屏風の山折(手前)に向かうように計算して描かれたのではないかと思うほど、迫りくる迫力を感じました。

重要文化財〈絵過去現在因果経 第四巻〉(部分) 慶忍・聖衆丸(画) 良盛(写経) 鎌倉時代 1254年
現世でのお釈迦様を描いた場面ということですが、身なりがインド風ではなく中国風になっています。これは唐本に基づいて作られたものが先にあったという説明を読んで合点しました。
文化史という面で、仏教が中国に拡がる様が垣間見られます。

重要文化財〈饕餮文尊〉中国・殷時代 紀元前13~前12世紀

重要文化財〈饕餮文尊〉中国・殷時代 紀元前13~前12世紀(部分)
考古部門からは、中国・殷の時代に祭祀用として使われた主に酒器の数々。
びっしりと刻まれた方形渦文は殷時代後期製の青銅器に特徴的なものだそうです。日本の縄文土器にも似たような渦巻文があり、隙間を埋めることへの呪術的なこだわりを感じさせます。

国宝〈無量義経・観普賢経〉平安時代 11世紀 無量義経(部分)展示期間:11月14日~29日
和様の書が美しく、文字だけで心打たれました。本来は『法華経』と合わせて3巻ものだったと思われるもののうち、2巻別々に入手され邂逅したというエピソードもロマンチックです。

重要文化財〈銹絵染付金彩絵替土器皿〉尾形乾山 江戸時代 18世紀
収集の方向性が定まる以前の初期に集められた皿だからこそ、本人の好みが反映されていることでしょう。

重要文化財〈丸壺茶入 銘 相阪〉南北朝~室町時代 14~5世紀
しかし、初代嘉一郎は、自らの好みよりも海外流出を止めんとする使命感により、様々な分野の作品を蒐集したそうです。
展示された茶の湯の道具を見ていると、使命感だけではない茶人としての側面もほのかに感じられました。
※許可を得て撮影しています。展示室では、撮影禁止です。
※期間中、展示替えがあります。
※チケットは、前日までのオンライン日時指定予約が必要です。
[ 取材・撮影・文:新井幸代 / 2020年11月13日 ]
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