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    レポート
    百花繚乱列島 江戸諸国絵師(うまいもん)めぐり
    千葉市美術館 | 千葉県
    マイナーは承知の上です
    江戸時代の絵師といえば、狩野探幽や尾形光琳、あるいは写楽や北斎、または人気の伊藤若冲。一般的にはこのぐらいですが、知られざる「ご当地絵師」は、各地にまだまだいます。蠣崎波響、小池曲江、鈴木鵞湖、紀楳亭、黒田稲皐…。ちょっと心配になってきました。名前、読めますか?
    (左から)鳥取県指定文化財 片山楊谷《猛虎図》江戸時代(18世紀) / 沖一峨《四季草花図》江戸時代(19世紀)[展示期間:4/6-5/6]
    (左から)蠣崎波響《カスベ図》江戸時代(18-19世紀) / 蠣崎波響、東東洋、東東寅《鮭図》文化11年(1814)
    (左から)亜欧堂田善《三囲雪景図》寛政(1789-1801)-文化期(1804-18)頃 / 亜欧堂田善《イスパニア女帝コロンブス引見図》文化期(1804-18)頃 歸空庵
    (左から)東東洋《柳に黒白図》江戸時代(18-19世紀) 仙台市博物館 / 仙台市指定文化財 東東洋《河図図(旧養賢堂障壁画)》文化14年(1817) 仙台市博物館
    (左から)谷文晁・増山雪斎ほか《臺山先生送別書画》文化8年(1811) 津山郷土博物館寄託 / 諸家《享和壬戌瑞泉小集寄合描》享和2年(1802) / 司馬江漢《バラにサボテン図》天明期(1781-89)
    (左から)紀楳亭(画)中島棕隠(賛)《大津絵見立忠臣蔵七段目図》天明8年(1788)以降 大津市歴史博物館 / 紀楳亭《大津三社図》文化5年(1808) 大津・元会所町蔵 / 紀楳亭《猿猴図》江戸時代(18世紀) 大津市歴史博物館
    曾我蕭白《渓流図襖》宝暦12-13年(1762-63)
    (左から)祇園井特《納涼美人図》享和期(1801-3)頃か 板橋区立美術館 / 月岡雪鼎《衣通姫図》安永7-天明6年(1778-86)頃 東京国立博物館[展示期間:4/6-5/6]
    (左から)鉅鹿民部(魏晧)《蓮に白頭翁図》江戸時代(18世紀) / 島津斉彬《牡丹図》江戸時代(19世紀)
    クイズのような書き出しで失礼しました。あえてメジャーな絵師にこだわらず、地方の画人に焦点を当てた展覧会です。

    藩が違うことは、国が違うことに近かった江戸時代。文化的にも各地でさまざまな展開が見られ、その地に根差した「ご当地絵師」が活躍しました。

    展覧会は地域別の構成で、第1章「百花繚乱!絵師列島への旅立ち ─ 北海道・東北・北関東ゆかりの画人たち」から。蠣崎波響(かきざきはきょう)は松前藩の家老。アイヌの肖像を描いた「夷酋列像」を、このコーナーでご紹介した事がありました。吊るされたエイを描いた《カスベ図》は、細部の表現がリアルです。

    その土地の特徴ある風景を描くのも、ご当地絵師ならでは。《塩竃松島図巻》は、塩竃に生まれた小池曲江(こいけきょっこう)による作です。

    見逃してほしくない一点が、根元常南(ねもとじょうなん)《旭潮鯨波図》。捕鯨ではなく、沖を泳ぐ鯨を遠景で表しました。「ホエールウォッチング図」という会場の解説は、言い得て妙です。


    「百花繚乱!絵師列島への旅立ち ─ 北海道・東北・北関東ゆかりの画人たち」

    第2章は「江戸 ─ 狩野派以外も大賑わい」。いつもの江戸絵画展なら主役になる章ですが、本展ではむしろ脇役。谷文晁や酒井抱一らは、比較的軽めの扱いです。

    鈴木鵞湖(すずきがこ)は、千葉ゆかりの絵師(現在の船橋市出身)。息子は石井鼎湖(画家・版画家)、孫は石井柏亭(洋画家)・石井鶴三(彫刻家)と、三代続く芸術一家です。

    第3章は「東海道を西へ ─ 尾張・伊勢・近江」。虫を徹底的に描いた《虫豸帖》は、伊勢国長島藩主の増山雪斎(ましやませっさい)。博物学を好む諸侯「博物大名」のひとりです。写生のために殺した虫の亡骸を大事に保管していたという、筋金入りの虫好きです。

    紀楳亭(きばいてい)は、与謝蕪村の高弟。大津に住んだため「近江蕪村」と称されました。大津絵はユニークさがウリとはいえ、《大津絵見立忠臣蔵七段目図》はあまりも、というユルさです。


    「江戸 ─ 狩野派以外も大賑わい」「東海道を西へ ─ 尾張・伊勢・近江」

    第4章は「京・大坂 ─ 諸派の爛熟と上方の版画」。ここでも円山応挙や曾我蕭白は軽めのご紹介ですが、蕭白《渓流図襖》は新出の襖絵です。

    明らかに異質な美人画を描いたのが、祇園井特(ぎおんせいとく)。写実的な面貌に対する異様な執念が、作品から滲み出ています。

    第5章は「中国・四国地方と出会いの地・長崎」。長崎に生まれ、鳥取で活躍した片山楊谷(かたやまようこく)。《猛虎図》では、技術を誇るように体毛を描きます。

    「鯉の稲皐」と称されるほど、写実的な鯉を得意にした黒田稲皐(くろだとうこう)。美しいだけでなく、鯉が持つ不気味な一面も見事に捉えています。


    「京・大坂 ─ 諸派の爛熟と上方の版画」「中国・四国地方と出会いの地・長崎」

    「ご当地絵師を一堂に集めて紹介する」という、いかにも手間がかかりそうな企画ですが、見事に北海道から長崎まで、個性的な画人が揃いました。江戸絵画の豊かさを、あらためて実感する事ができます。

    名前を知らない人が多い事もあって、いつもより観覧時間がかかると思います。余裕を持ってお楽しみください。5月6日(日)までの前期と5月8日(火)からの後期で展示替えがありますが、リピーター割引も実施しています(半券の提示で2回目以降の観覧料が半額です)、「片手で持つと腱鞘炎になる」というヘビー級の図録(2,200円)もオススメです。

    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年4月10日 ]

    日本絵画の見方日本絵画の見方

    榊原 悟(著)

    KADOKAWA/角川学芸出版
    ¥ 1,836


    ■百花繚乱列島 に関するツイート


     
    会場
    会期
    2018年4月6日(金)~5月20日(日)
    会期終了
    開館時間
    午前10時-午後6時 (入場は午後5時30分まで)
    金曜日・土曜日は午後8時まで (入場は午後7時30分まで)
    休館日
    5月7日(月)
    住所
    千葉県千葉市中央区中央3-10-8
    電話 043-221-2311
    公式サイト http://www.ccma-net.jp/
    料金
    一般 1,200(960)円/大学生 700(560)円/小・中学生、高校生 無料

    ※( )内は団体20名以上、市内在住65歳以上の方
    展覧会詳細 「百花繚乱列島 −江戸諸国絵師(うまいもん)めぐり−」 詳細情報
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