アール・ヌーヴォーからアール・デコの時代は、美術史上最も美しいガラス作品が制作されました。また1879年、エジソンによって電球が発明され人々の暮らしは一変。照明の普及に伴いガラス工芸も大きな変化を遂げます。
会場入口
新たな光「電球」を得たことによって、室内を照らすガラスのランプが制作されました。本展覧会では天井灯とテーブルランプ、その光を受けて輝く花器など50点が展示されています。
会場風景
タイトル「ガラスと光の饗宴」の「光」には、「電球」の光とガラスという意味も込められています。アール・ヌーヴォー時代の作家としてエミール・ガレやドーム、アール・デコ時代はラリックを取り上げます。
会場風景 テーブルランプ
テーブルランプと天井灯
本展覧会一番の目玉、アール・ヌーヴォーを代表するドームのランプです。家具作家マジョレルとの共作で、マジョレルが制作した足は、つなぎ目のない一体型になっています。
ドーム&マジョレル 睡蓮三灯ランプ 1905年
ドームはその足から型をとる困難な作業に加え、緑とピンクのガラスを重ねて流し、睡蓮を掘り出しました。両者とも非常に高い技術を駆使した渾身の作品です。
天井にはこれまでとは違うタイプのランプが目につきます。ガレの他にドーム、ミューラーの作品が並びます。
ミューラー兄弟 ポージュ風景文 天井等 1910年
光を受けるガラス
エミール・ガレの《松に鷹文花器》は、狩野派の絵に着想を得たとされます。封入した雲母ガラスは胡粉を散らした雪のよう。複数回重ねたエナメル彩色は、松の枝のゴツゴツ感が表現されています。またウランを含むガラスは、暗い場所で紫外線ライトを当てると蛍光の緑が妖艶な光を放ちます。
エミール・ガレ 松に鷹文花器 1900年
アール・ヌーヴォーとアール・デコの制作スタイル
アール・ヌーヴォー期、海洋学が発展します。エミール・ガレは海洋生物をモチーフにしました。左の花器の貝のあたりに亀裂が見られます。困難な技を繰り返し、最後に貝を彫る時に入ってしまいました。
エミール・ガレ 貝文花器 1902年
このような作品は、エチュードと刻印され、完成の域に達したものとして美術館に収蔵されました。限界ぎりぎりまで攻める制作姿勢を物語っています。
一方、アール・デコ時代への変化を素早くキャッチし、シンプルなガラス作品を制作したラリック。電球の普及に伴い、光を透過しやすい様々な素材で制作し人気を博しました。生産性や採算を考慮した技術。同じ型で色を変えるなどコレクション欲を刺激する巧みさもあります。
ラリック作品
アール・ヌーヴォーからアール・デコへ変化した時代は、電球の普及もあり、ガラス制作のスタイルもそれぞれの作家の思惑が見え隠れします。
エミール・ガレの完成作品の裏には数々の失敗作が眠り、職人魂が伝わってきます。ラリックは時代の波をとらえ、制作効率や販売戦略にも長けていました。 ドームは技術力を展覧会で披露し、販売は市場に合わせた作品作りをする巧みさがありました。
ドーム 茸型大型ランプ 1920年
作家や時代背景によっても変わる制作姿勢の違い。工房を維持・存続させる光と陰にも見えてきました。
[ 取材・撮影・文:コロコロ / 2023年6月20日 ]
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