最新の調査と研究手法で、ミイラの実像に迫る本展。地域別の4章構成です。
第1章は「南北アメリカのミイラ」。自然ミイラ、人工ミイラとも、世界最古のミイラはこの地域で発見されています。
前者は米国ネバダ州の洞窟から出土した、約1万年前のミイラ。40歳代で、遺伝的にはアメリカ先住民に近い事が分かっています。後者はチリ北部のチンチョーロ文化でつくられたもので、約7000年前のミイラです。
インカ以前の南北アメリカでは、各地の遺跡からミイラが見つかっています。チリバヤ文化では内臓を取り出すなど、人為的な加工も行われました。
インカ帝国では歴代の皇帝がミイラになりました。ただ、スペイン人による征服の後、多くのミイラが破壊されてしまいました。
第2章は「古代エジプトのミイラ」。気温が高く湿度が低いエジプトは、ミイラにとって理想的な環境です。ミイラになった古代エジプト人は、なんと1億5000万人と言われています。
古代エジプトにおけるミイラづくりは、約5000年前の初期王朝時代から。古王国時代には遺体から内臓を取り除くようになります。
その後、水分吸収と殺菌作用がある「ナトロン」を利用するなど、ミイラ制作の技術が進歩。新王国時代になると、美しく生前の姿を表現するなど、その技術は頂点に達します。
グレコ・ローマン時代になると、棺やミイラ表面の装飾はさらに華美になりますが、ミイラ制作は簡易な手法に。
エジプトにおけるミイラづくりの歴史は、4000年近く続きましたが、オスマン帝国による支配によって終止符が打たれました。
古代エジプトで特徴的なのが、動物のミイラです。死者の食事、ペット、神への捧げものなど、さまざまな用途で作られました。
第3章は「ヨーロッパのミイラ」。ヨーロッパには遺体をミイラにして保存する文化はほとんどありません。
展覧会のチラシになっているカップルのようなミイラは、オランダで見つかったもの。ただ、分析の結果、二人とも男性だった事が分かっています。
第4章は「オセアニアと東アジアのミイラ」。オセアニアにはミイラ文化も存在しましたが、現存するミイラが少なく、その実状は良く分かっていません。
中国もミイラは数多く見つかっていますが、すべて自然のミイラ。長い歴史を誇る中国ですが、人工的にミイラをつくる文化が一度もなかったのは、やや意外に思えます。
日本も気候的にはミイラには不向きですが、江戸時代の遺跡からは自然ミイラが数体見つかっています。
即身仏は、仏教思想に基づく行者・僧侶のミイラ。袈裟を着た衝撃的なミイラは、貫秀寺(福島県浅川町)の即身仏です。1683年、92歳で入定し、以降330年以上にわたって、崇拝の対象として大切に守られています。
世界最大級のミイラを科学する展覧会。多くの来場者を集めると思いますので、会期序盤がおススメです。東京展でスタート、熊本、福岡、新潟、富山と巡回します。会場と会期はこちらです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年10月31日 ]