上野の森美術館で始まった本展は、1983年から開催されている「上野の森美術館大賞展」の受賞作品を紹介する展覧会です。
展覧会のテーマは「なんでもない、どこにでもある日常」。コロナ禍が続くいま、こういう時期だからこそ見てみたいと思う作品、約80点が、5章構成で展示されています。

会場風景
第1章は「日常のなかに」。家や室内、身の回りの光景、自身やすぐそばにいる親しい人を描いた作品など、まさに「なんでもない、どこにでもある日常」を感じる作品が並びます。
展覧会メインビジュアルは、千葉美香《神秘》。沖縄の伊計ビーチで光や風、水などがもたらす心地よさを感じ、この作品では「生きる喜び」を表現したそうです。第35回(2017年)上野の森美術館絵画大賞の作品です。

(左から)千葉美香《神秘》2017年 / 真鍋修《頁》2007年 / 生地みのり《rail》2020年
第2章は「日常から絵画へ」、ここでは絵画の様式に着目。日常を題材にしながらも、絵画固有の空間構築により、独特の画面が生まれています。
作家たちがこの作品を制作したのは、20代~30代の半ば。過去や同時代の美術に学びながら、自身の絵画を確立していこうとさまざまな手法に挑んでいます。

(左から)樺山祐和《HITORI》1990年 / 山本達郎《T氏の部屋(A)》1989年
第3章「動物」。現代の人々とって動物は、ペットは極めて身近な存在になった一方で、それ以外の動物を日常で意識する事はほとんど無くなっているでしょう。
ただ、古来から美術や工芸のモチーフになってきた動物。特に日本画には花鳥画の伝統があり、その流れは現代の作家にも受け継がれています。動物ならではの生命力や躍動感、そして色や形の美しさは、現代の作家をも魅了します。

(左から)𠮷田幸紘《蒼ク想ウトキ》2012年 / 青木秀明《Life》2003年 / 桜井まど香《知れや語れや》2017年
会場2階に上がって、第4章は「風景」。まさに日常の隣にある風景。この章には、手の届く範囲の風景よりもはもっと広い、遠い風景や俯瞰した風景の作品が並びます。
街、建物、工場や鉄道など、都市の建築物は、人を描かなくても生活を連想させます。一方で、水の流れや雲など自然には、悠々とした不変の姿に目が向けられています。

(左から)櫻井あすみ《fragments》2016年 / 長濱俊之《神社のある街かど》2020年 / 松崎十朗《夜景》1993年 / 茂木瑶《星座 ― 窓からの風景 ―》2014年
最後の第5章は「ひろがる想像」。画家のクリエイティビティは無限大。カンバスの大きさには制約があっても、自身の想像力で目の前の現実をはるかに上回る世界を、どこまでも描き出す事ができます。
身近なモチーフを別のイメージと重ねたり、動きや空気など、回りにあっても目に見えないものを表現したりと、画家の意欲が作品に反映されています。

(左から)長友紀子《Landscape 01》2006年 / 小谷里奈《廻る気色》2018年
特集展示として日本を代表する版画家の一人である野田哲也の〈日記〉シリーズ、そして秋山さやかが上野公園を題材に制作した作品も紹介されています。
この展覧会も日時予約制です。あらかじめWEB販売かコンビニ店頭販売で日時指定券を購入のうえ、会場にお越しください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年7月22日 ]