もりおか歴史文化館と原敬記念館の2館に分割収蔵される「宝裕館コレクション」は、約100点の美術工芸品からなる作品群です。このコレクションは、盛岡藩で活躍した川口月嶺や田鎖鶴立斎・本堂蘭室兄弟らによる江戸絵画、東北地方出身の近代画家たちの作品の他、幕末の志士の書や、盛岡藩主や藩士所用の具足・刀剣など、盛岡にとって非常に重要な作品を多数含んでいます。これらの美術工芸品は、旧盛岡藩主南部家旧蔵の品々をはじめとした郷土の優れた作品を散逸させずに地元に残すため、寄贈者である金沢裕臣氏の祖父友次郎氏と父重雄氏によって、長い時間をかけて収集されたものです。
これらの資料群がより広く多くの方々の目を楽しませられるようにと裕臣氏から盛岡市に寄贈されたのは、昭和57年(1982)の8月のことでした。寄贈に際して資料群に付けられた名前は「宝裕館コレクション」。この名前は、もともと仙北町で乾物屋・醸造業を営んでいた金沢家の屋号「寶田屋」の「寶」と寄贈者である裕臣氏の名前の頭文字「裕」を合わせて名付けられたものでした。「宝裕館」の「裕」という字は「ゆたか」とも読むことができます。江戸時代から昭和初期にまで至る長い期間の、しかも武具や刀剣から書画までという幅広い分野の美術工芸品を含むこのコレクションに、実にふさわしい名前です。
本展では、この宝裕館コレクション寄贈40周年にあたり、本コレクションを構成する作品を1点ずつ独立したものではなく、「コレクション」という一群として見つめなおします。そこには、コレクションを収集した金沢家3代の思いとともに、盛岡の美術・工芸史の中でのコレクションの果たす役割が見えてくるはずです。