福岡県には「小石原焼」や「上野焼」「高取焼」といったやきものが知られていますが、それらには江戸時代から続く歴史があります。しかしながら、江戸時代の窯跡など窯業に関係する遺跡の実態は十分に明らかにされていませんでした。福岡県は令和2年度から近世窯業関係遺跡の分布調査をおこない、将来にわたって保護する基礎資料を作成しました。
調査では、実際に現地を歩くことにより、従来あまり知られていなかった窯跡を確認するなど数多くの成果が得られました。窯跡には焼け損じた陶磁器をはじめ、焼く際に用いられた道具や窯の壁土などが散布している状況を確認し、記録しました。これらにより窯の年代や、陶工の系譜といった数多くの所見を得ることができました。
江戸時代の陶磁器の窯からは、どのようなものが出土するのでしょうか。美術館や博物館で展示されるような立派なものは、まず出土することはありません。ほとんどは、ひずんだり割れたりしたもので、焼く際に捨てられた失敗品です。このことは、登り窯の温度のコントロールが難しかったことを物語っており、陶工の苦労をうかがうことができます。
失敗品よりもたくさん出土するのが「窯道具」です。登り窯では、一度にたくさんの製品が焼かれますが、製品同士あるいは窯の床にくっつかないように、窯詰の際に道具が使われます。窯道具は商品として出荷されるものではなく、使い終わって窯の横に捨てられているのです。まったく見栄えのしない窯道具ですが、窯の年代や技術的な系譜を考える上でたいへん多くの情報を含んでおり、研究者にとっては極めて重要な資料なのです。
この企画展では、調査成果と窯道具や焼け損じ資料から福岡県の近世窯業の歴史を紹介します。