万寿寺は明朝の1577年の創建。清代に何度かの拡張を経て、皇室の重要な寺院になりました。
全国重点文物保護単位の一つでもあるこの寺院に設けられているのが、北京藝術博物館です。原始時代から明清までの中国古美術品を所蔵・公開する一方で、海外の美術展も行われており、浮世絵や伊万里焼の展覧会が開催された事もあります。
本展は北京藝術博物館の所蔵品から、女性をテーマにセレクトした逸品を6章で紹介する企画。まずは刺繍からです。
伝統的な女性の手仕事である刺繍。中国の宮廷では、最高級の技を駆使した糸による芸術が作られました。子孫の繁栄や健康・長寿などを意味する吉祥のモチーフには、女性たちの願いが現れています。
第1章「女性の手仕事 ─ 刺繍」続いて服装と装飾品。明朝は漢民族の服、清朝では満州族の服と様式が異なりますが、どの時代においても階級ごとに違いがありました(清代末期には満州族と漢民族の服装は融合していきます)。
装飾品は首飾や串飾、佩飾(首や腰に吊るす装身具)など。美しく身を飾るのは、いつの時代も女性の憧れです。金、玉、琥珀、ガラス、そしてカワセミの羽まで使った多彩な装飾品が並びます。
第2章「鳳凰の儀容 ─ 服装」、第3章「簪と朝の化粧 ─ 装飾品」明から清の時代は、女性の書画家が数多く活躍しました。北京藝術博物館には、在野の女性書画家だけでなく、上流階級の女性が残した書画も数多く伝わっています。
中でも最高位といえるのが慈禧、すなわち西太后が書いた書画です。「中国四大悪女」のひとりとされる西太后は、実は教養豊かな人物。書も画も人並み以上の作品を作っています。
とはいえ、実は代筆が多いのも事実。「慈禧 御筆」と書かれていても、その多くは繆嘉蕙による代筆とも言われています。確かに良く見ると、同じ作者とは思えないほどレベルに差があります(つまり、下手な方が西太后の真筆の可能性が高い作品です)。
第4章「薫り高き心 ─ 書画」上階は家居生活と文玩書籍。清代末期の中国陶磁器がこれだけまとまって出展されるのは、ちょっと珍しいかもしれません。
ここでは目立つ人物像を二点ご紹介しましょう。ひとつは《清贈一品夫人汪母王夫人像》。一品は皇帝が任命する最高位の官位で、この像はその夫人の肖像。総理大臣の奥様の肖像画、といったところでしょうか。
もうひとつは、展覧会のメインビジュアルでもある《清代公主像》。描かれた人物が特定されていないにも関わらず、皇帝の娘である「公主」と名づけられているのは、身に着けている冬の朝服からです。
また、さらに分かりやすいポイントが、服に描かれた龍の爪。五本の爪を持つ龍は、皇帝とその一族しか用いてはならないのです。《公主像》の龍は五本、《一品夫人像》は四本です。
第5章「奇巧を尽す ─ 家居生活」、第6章「文雅の室 ─ 文玩書籍」中国人と日本人。同じ東アジアに住み、似たような顔立ちですが、習慣や考え方が異なる事は少なくありません(例えば中華圏の人に対し、慶事に置時計や掛時計を贈るのは極めて無礼です。傘もNG。理由は図録でご確認ください)。それぞれに違いがあるのは当たり前。その上で、次のステップに進みたいものです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2015年6月8日 ]■中国宮廷の女性たち 麗しき日々への想い に関するツイート