東京の工芸館としては最後の取材レポートになりますので、まずは建物を振り返りましょう。
現在の赤レンガの建物は、1910年(明治43)の建築。旧近衛師団司令部庁舎として、陸軍の技師が設計しました。天皇を護衛する近衛師団は、二・二六事件や宮城事件など、昭和の大きな転換点にしばしば登場します。
1972年(昭和47)には、玄関と階段ホール、外観部が重要文化財に指定されました。内部は谷口吉郎の設計で改修が行われ、和室も含め展示室が設けられています。
展覧会は5章構成です。さらに20のキーワードを設け、展示作品から作家のパッション(情熱)を感じてもらいます。
1章「日本人と『自然』」は、(1)作ってみせる (2)囲みとって賞でる
初代宮川香山は、明治時代の陶工。派手な立体で動植物を表現した「高浮彫」は、海外で高く評価されました。志村ふくみは紬織で初の人間国宝。染料もすべて、植物から採っています。
2章「オン・ステージ」は、(3)垂れ下がって気を吐く (4)ジャパン・プライド
壁から突き出た巨大な手袋は、小名木陽一《赤いてぶくろ》。かつてスイス・ローザンヌで開催されていた、国際タピスリー・ビエンナーレへの出品作です。鈴木長吉《十二の鷹》は、シカゴで開かれた博覧会で展示されました。“美術品”としての展示には、美術商・林忠正の関与も指摘されています。
3章「回転時代」は、(5)モダンv古典 (6)キーワードは「生活」 (7)古陶磁に夢中 (8)線の戦い (9)私は旅人
七宝・金工・木工・染織など、多彩な分野で活躍した藤井達吉。工芸を総合芸術としてとらえていました。石黒宗麿は中国の古陶磁に傾倒しました。唐三彩など、古陶に学んだ作品が並びます。
4章「伝統⇔前衛」は、(10)「日常」 (11)人間国宝 (12)オブジェ焼き (13)日本趣味再考 (14)生地も一色 (15)「工芸的造形」への道 (16)素材との距離
染色家の芹沢銈介は「芹沢染紙研究所」を設立して、染め紙の小品を量産。人気のカレンダーは、1万組(12万枚)を出荷した事もあります。建物の前庭に展示されているのは、橋本真之の作品。金属を叩いて成形する手法「鍛金」で作られています。
5章「工芸ラディカル」は、(17)瞬間、フラッシュが焚かれたみたいだった (18)オブジェも器も関係ない (19)人形は、人形である (20)当事者は誰か
四谷シモンは人形作家。ハンス・ベルメールの人形に感化されて、球体関節人形を手掛けるようになりました。《解剖学の少年》は、下腹部を含む裸身はもちろん、内臓まで露出しています。
この展覧会の後、金沢市に移転する工芸館。建物は、明治期に建てられた旧陸軍の施設2棟(旧第九師団司令部庁舎と旧金沢偕行社)を移築して活用します。
場所は兼六園のすぐ近くで、金沢21世紀美術館まで徒歩5分という絶好の立地。今夏の正式オープンも待ちどおしいです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2020年2月3日 ]