日本地図を作った伊能忠敬は今年、没後200年を迎えます。地図製作の精度が飛躍的に発展した江戸時代。伊能図が完成するまで、長らく日本地図の基本形とされた《行基図》が、展覧会の最初に登場します。
《行基図》は、山城国(平安京)を中心にして、楕円形に諸国が連なっているのが特徴。不格好ですが、日本のかたちを、大まかに知ることができます。地理学的には不正確ながら、国内外で地図上に日本を描く際、長く参考にされていました。
作成者とされる行基は、8世紀の僧侶。残念ながら当時の地図は現存しません。複数種類ある《行基図》のうち、今回の展示では鎌倉時代の百科事典『捨芥抄』に収録されていたものを見ることができます。
企画展「大♡地図展」第1会場地図としての正しさよりも、膨大な情報量と美しさで勝負した、石川流宣の《大日本国正統図》。「流宣図」とも総称される日本地図の一つです。地図好きには垂涎の資料を、至近距離で見ることができます。
地図としての機能のほか、諸国藩主の石高や、主要な街道、宿場や名所などの情報が細かく書き込まれています。旅行文化が花開いた江戸時代。庶民たちの興味対象は、列島の正確な形より、観光資源の方だったのでしょうか。
本展の目玉は、石川流宣《大日本国正統図》と、長久保赤水《改正日本輿地路程全図》が隣同士に並ぶこと。地図の変遷を間近で確認できるチャンスを、お見逃しなく。
今年は、歌川広重も没後160年を迎えました。広重は江戸から離れることなく、先行の名所図会などを資料にし、《六十余州名所図会》などの名所絵を作成しました。
東洋文庫が所蔵する浮世絵資料は、極めて保存状態が良好。摺った当初の木目の跡まで確認できるものもあります。
企画展「大♡地図展」第2会場デジタルコンテンツも豊富です。展示室中央に用意されたモニターでは、貴重な古地図の高精細画像を活用し、実物では見づらい注目ポイントを分かりやすく紹介。細かく書かれた山の名前も目を細めずに読むことができます。
『江戸大絵図』(18世紀初頭/東洋文庫蔵)を、現在の江戸北部の立体模型に映し出した作品は、日本大学理工学部学芸員課程の学生の皆さんが作成。夏休みのすべてを、この模型に費やしました。
平面の地図を立体にすることで、広大な敷地を有していた大名屋敷が、現在では沢山の区画に分かれていることなどが、視覚的に確認することができます。
本展のタイトル「大♡地図展」の正式な読みは「だい♡ちずてん」。学芸員たちは「だい〈すき〉ちずてん」と、「♡」を「すき」と読んでいます。地図へのラブが詰まった展覧会。これを見たら、何気なく見ていた地図がきっと大好きになってしまいます。
[ 取材・撮影・文:静居絵里菜 / 2018年9月27日 ]