江戸時代後期の禅僧・仙厓義梵(せんがいぎぼん 1750-1837)。ユーモアに満ちた作品は、少し前の時代の白隠慧鶴(はくいんえかく 1685-1768)とともに良く知られています。
永青文庫が所有する仙厓の禅画を中心に、周辺の禅僧にも焦点をあてて、楽しい禅画の世界を紹介する展覧会が同館で開催中です。

永青文庫「仙厓ワールド ―また来て笑って!仙厓さんのZen Zen 禅画―」会場
永青文庫の創設者、細川護立(1883-1970)は、まだ禅画が広く知られる前から白隠の作品を蒐集。後に仙厓のコレクションも始めました。
ではさっそく、仙厓の作品を見ていきましょう。こちらは鐘馗(しょうき)と鬼が真正面を向いた楽しい構図。鐘馗は日本では魔除け、疱瘡除けの神として信仰を集めました。

仙厓義梵《鍾馗図》江戸時代後期(19世紀)[展示期間:5/21~6/19]
こちらは、なんとものんきな龍虎図。一般的には虎が龍を迎え撃つように対峙する姿で描かれますが、本作の虎は穏やかな表情です。
当初は襖絵だった作品で、現存する仙崖作品唯一の襖絵という貴重な作例です。

(中央)仙厓義梵《龍虎図》江戸時代後期(19世紀)[展示期間:5/21~6/19]
こちらも、かなりくだけた作品。切れた縄をヘビと勘違いして大騒ぎする子どもの図です。
仙厓はこの画題をしばしば取り上げており、先入観にとらわれずに物事を冷静に判断する事の重要性を説いています。

仙厓義梵《朧月夜図》江戸時代後期(19世紀)[全期間展示]
続いて、臨済宗中興の祖とされる白隠。多くの著作を残しており、現存する書画は1万点を超えるといわれます。
こちらは、布袋を描いたもの。白隠はさまざまな布袋を描いており、布袋図は白隠の分身で、いわば自画像であるともされています。

白隠慧鶴《布袋坐禅図》江戸時代中期(18世紀)[展示期間:5/21~6/19]
誠拙周樗(せいせつしゅうちょ)(1745~1820)は、仙厓の兄弟子です。仙崖の師である月船に、仙崖より4年早く弟子入りしました。
円相は悟りの象徴。賛文から、誰にでも平等に仏性(ぶっしよう:仏としての性質)が備わっていることを表したものと思われます。

誠拙周樗《円相図》江戸時代後期(18世紀末~19世紀)[全期間展示]
立派な書画集は『白隠墨蹟』です。大正10年、38歳の細川護立は「白隠遺墨展覧会」を開催し、自身の白隠コレクションを公開。主要な出品作をまとめたのが本書です。
結城素明が表紙絵を、横山大観と平福百穂が見返し絵を手がけている豪華版です。

『白隠墨蹟』大正11年(1922)[全期間展示]
最後に、少しトリビア的な話題を。「禅画」という言葉が広まったのは、戦後にドイツ人の美術研究家が使い始めてから。また、同じ禅僧でも雪舟の作品は禅画とされないように、現在では江戸時代以降の禅僧が描いた絵画だけが「禅画」とされています。
なんとも楽しい禅画の世界。6月19日(日)までの前期展と6月22日(水)からの後期展で大幅に作品が展示替えされますのでご注意ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年5月20日 ]