2020年に和歌山県立近代美術館で初めてみた田中秀介さんの作品。描かれている風景や人は、知っているようで知らない、いや知らないというより何かが違う。作家の視線や角度に合わせようとすると、絵画の前で腰を低くしたり首を横にしたりすることになり、見ることの面白さを体感させてくれたのでした。

展示風景
そして現在、彼の個展が大阪市立自然史博物館・本館の第2展示室で開催中です。マンモスや恐竜の骨格や化石などが並ぶ部屋に田中さんの絵画作品12枚9点が展示されています。

展示風景

《せり出す異様と拠り所》2022 油彩、キャンバス 259×388cm 作家蔵
巨大なゾウたちの間から見える《せり出す異様と拠り所》。描かれたキバは、実物のキバが鏡に映りこんでいるような、はたまた自分が見ているものがキャンバスに投影されているような不思議な感覚になります。

《一端の星》2022 油彩 キャンバス 259×194cm 作家蔵
大きな黒い物体《一端の星》。これは一体何?絵からとてつもなく大きなものを想像して会場をきょろきょろと見まわしましたが、実物はA4サイズほどの火山岩。この岩をドアップで描くとは。田中ワールドが迫ってきます。

モチーフとなった火山岩 大きさのギャップが妙
「田中さんは、この小さな火山岩の中に広い宇宙をみたのでしょう。」同館の中条学芸員は「展示物を写し取るのではなく、ここで実際に感じたことを作品にしているのです。」と話します。

《これまでをこれからの果てへ》2022 油彩、キャンバス 259×582cm 作家蔵

左端が《取り持って一体》
《これまでをこれからの果てへ》では骨格たちが行進しているようです。《取り持って一体》は3メートルもあるキバを後ろ側から描いています。絵画のようにキバは支柱に支えられていて、私は見てはいけないものを見てしまった気になったのですが、田中さんは支持するものとされるものの関係性をそこに見出しています。
彼の作品を見ながら、私自身が自然史博物館でどう感じているかにも気がつきます。

ザトウクジラの肩甲骨。これも絵画作品に。探してみて下さい。

展示風景
下から見上げる絵画たち。キャンバスの大きさ200号(約250㎝×約200㎝)という数字からかなりの大きさであると頭では理解しつつ、天井高くにある絵画は小さく見えてしまいます。首を90度に折っての鑑賞は、恐竜たちを眺めるのと同じ姿勢をすることとなり、徐々に美術や博物学という境目が取り外されていくようです。
2年前に田中さんの作品に感じた「違和感」が変化球となり飛んできました。新たな「見る」面白さの発見です。

2階から見渡した風景

アンモナイトの化石は触ることができます。菊の葉のような模様に驚きました。
本展のような「美術と博物館の異分野のコレボレーション」は、国内の博物館でも珍しい試みなのだそう。普段は美術以外にはあまり興味がない私も、気づけばアンモナイトを撫でまわしていたという結末。大阪市立自然史博物館と田中秀介さんの思うツボに気持ちよくはまってしまいました。

博物館入口に吊られた鯨の骨格3体が出迎えてくれます。

博物館は緑豊かな植物園と隣接しています。
[ 取材・撮影・文:カワタユカリ / 2022年11月2日 ]
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