三菱の第二代社長を務めた岩崎彌之助と、第四代社長の岩崎小彌太によって創設・拡充した静嘉堂文庫美術館。丸の内に移転して初めての春を迎えました。
卯年生まれの岩崎小彌太の還暦を祝して制作された、愛らしい御所人形をはじめ、吉祥性あふれるさまざまな作品を紹介する展覧会が、同館で開催中です。

静嘉堂文庫美術館「初春を祝う ― 七福うさぎがやってくる!」会場
展覧会は第1章「新春・日の出」から。《松に鵲・梅竹に鳩図屏風》は花鳥画の名手で帝室技芸員でもある滝和亭が還暦の際の作品です。
不老長寿や繁栄を意味する松竹梅に、鵲(かささぎ)は、中国で「喜びを知らせる鳥」とされています。

滝和亭《松に鵲・梅竹に鳩図屏風》明治23年(1890)
注目の御所人形は第2章「七福うさぎがやってきた ─ 小彌太還暦の祝い」です。
七福神と童子たち、兎の冠を戴く総勢58体の御所人形で、小彌太の夫人、孝子が京都の人形司・ 丸平大木人形店の五世 大木平蔵に制作させ、昭和14(1939)年に東京・麻布の鳥居坂本邸における還暦祝賀会で披露されました。
布袋と弁天は小彌太と夫人を写したともいわれます。

五世大木平藏《木彫彩色御所人形》昭和14年(1939)
李培雨による2点の兎の作品も、小彌太の還暦を祝って制作されたもの。草木とともに愛らしい兎が描かれています。
李培雨は清末の宮廷画家で、晩年は天津に亡命。台湾の国立故宮博物院などにも作品があります。

(左から)李培雨《兎図》中華民国28年(1939) / 李培雨《双兎図》中華民国28年(1939)
第3章は「うさぎと新春の美術」。今年の干支である兎は、多産の象徴。吉祥のイメージを持つため、さまざまな絵画や工芸品で表現されてきました。
《呉州赤絵兎文香合》に描かれているのは三日月と兎。古来中国で月の兎は不老不死の仙薬をつくとされてきました。

漳州窯《呉州赤絵兎文香合》明時代・17世紀
《川至日升図》は中国の古典から着想した作品。山の中腹から滝が流れ、水が満ちて波が立ちます。岩山からは松が天に向かって伸び、旭日が浮かびます。
重要文化財で、修理後、本展で初公開となります。

重要文化財 王建章《川至日升図》明時代・17世紀
第4章は「七福神と初夢」。初夢で一年の運勢を判断する「夢占」は、鎌倉時代からありました。
《浜松に鶴蒔絵印籠》は京都の蒔絵師で、代々禁裏の御用を務めた山本家の5代・光利の作。表と裏が繋がっている意匠で、浜辺の松に降りようとする鶴を表しています。
浜松に鶴は、蓬莱山に通じるイメージ。富士山も蓬莱山に見立てられ、根付の意匠が鷹と茄子であることから、全体で「一富士二鷹三茄子」をイメージしたものと思われます。

(左から)印籠:2代豊川楊渓《猩々蒔絵印籠・木彫根付 眠り猩々》江戸~明治時代・19世紀 / 印籠:山本光利《浜松に鶴蒔絵印籠・象牙彫根付 鷹に茄子》江戸~明治時代・19世紀
最後は浮世絵を。歌麿風の美人を七福神に見立てたシリーズで、それぞれの美人の傍らに七福神の持ち物などが描かれ、どの絵が何なのか、読み解ける趣向です。
作者の鳥文斎栄之は幕府直参の旗本で、肉筆美人画の名手です。

(左奥から)鳥文斎栄之《福人宝合 弁財天》 / 鳥文斎栄之《福人宝合 寿老人》 / 鳥文斎栄之《福人宝合 布袋》 / 鳥文斎栄之《福人宝合 毘沙門天》 / 鳥文斎栄之《福人略宝合 福禄寿》いずれも 江戸時代・寛政7年(1795)頃
新年らしい作品が揃った展覧会です。静嘉堂随一の至宝である、国宝《曜変天目》も展示されています。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年1月10日 ]