緑深き山の中に滋賀県の美しきアートスポット、MIHO MUSEUMはあります。
冬期休館を終えていよいよ2023年の展覧会がスタート、「美の祈り Universal Symphony」は、“祈り”をテーマにした春季特別展です。

MIHO MUSEUM 2023年春季特別展開催です
「祈り」の語源を「生宣」ととらえ、神仏への信仰というより生命への感謝という面から見つめたラインナップを、8つのセクションで展開しています。生物や植物、自然現象など大自然への畏敬の念を、姿形あるものに表して日々感謝する精神を東西美術でたどれば、長く時間や場所を隔てていても、どこか通ずる「心」が見えてきました。
男性と婦人の2つの小像は、右手を額にあてて仰ぎ見る仕草。神殿や祠堂に奉納され、服装の細かな表現や笑みをたたえた表情は、東地中海地域の遺跡や壁画に同様様式がみられるもので、永遠に神を礼拝する姿だそうです。

東西の祈り 《男性小像》 《女性小像》 東地中海地域 前2千年紀中頃
器の装飾にも多くの神獣が施されました。獣角や動物の頭部をかたどったリュトンや杯が多数並びます。この獰貓(カラカル)は何と迫力ある姿でしょう。

聖獣たちの護り 《山猫形リュトン》 パルティア 前1世紀
この世に豊かさをもたらす聖樹ナツメヤシのレリーフや、復活再生を象徴する舟形容器、インド更紗に染められた生命の樹など、祈りの対象が動植物など自然に存在するものであったことがよくわかります。

生命をもたらす樹 《聖樹と精霊浮彫》アッシリア 前9世紀

《聖樹装飾舟形容器》 前アケメネス朝ペルシア 前7世紀 《生命樹草花鳥獣文壁掛け》 インド 18世紀
それでは、日本の祈りの対象はどうでしょう。古都奈良に春を告げる東大寺二月堂の修二会(お水取り)に関連した出展が並びます。松明の火と捧げる水の再生への祈りです。そして神仏の像。人々に救いの手を差し伸べてくださる優しい手がありました。

神仏への慈愛 《仏手》 鎌倉時代 13世紀
合掌する飛天もいらっしゃいました。ふと心が緩むような気持ちになる小さな像は、鎌倉時代のもののようですが、どんな本尊と共に祀られていたのでしょうか。

《飛天像》 鎌倉時代 13世紀
宗教が画家や工芸家によって、庶民でも目にする形あるものとなり、身近になってきました。武将たちは念持仏に祈り、白隠など僧侶は仏画を描き、光悦や宗達により華やかな工芸品や町衆文化への拡大など芸術文化と融合することで、祈りの対象は生活と密着した内容となりました。そこにもやはり、自然と向き合う信仰が存在し、山や海、生物や植物に祈ることで、毎日の生活に希望と感謝の時間をもたらしました。
曽我蕭白の山水画、自然神への信仰、霊峰富士の大作には目をみはると共に、きっと多くの人々が富士に向かい、その恵みに感謝したと想像できます。

暮らしの祈り 展示風景

《富士三保図屏風》(一部)曽我蕭白筆 江戸時代 18世紀
紀元前のものから戦国の世を越えた日本の作品まで、時空を超えた美術品を巡礼することができることが、今回の特別展の醍醐味です。「生命樹草花鳥獣文壁掛」は、私の脳裏に岡本太郎作の太陽の塔内部の「生命の樹」を思い出させたり・・東西の美術品からみえる「祈り」の共通性は、生きていくための必然から生まれているものに思えてなりません。
様々な姿、表情で私達の祈りを聞いてくださる仏像や神像だけが祈りの対象ではなかったこと、自然への感謝が恩恵となることが、とてもよく理解できる展覧会です。だからこそ、永遠に継がれいくのだと感じました。
今回2つの世界は副題であるUniversal Symphonyの作品で繋がれています。MIHO MUSEUM初代理事長の小山弘子さんの平和への祈りがこもったメモリアル展示は、世界的彫刻家・流政之作の祈りの像と、唐紙師・トトアキヒコ作の空間です。 美術館へのトンネルが、花咲く桜並木のピンク色に染まる平和な春を、静かに待っているかのようでした。

参考作品 《ユニバーサルシンフォニー・部分》 唐紙師・トトアキヒコ作 令和2年 《祈りの像》 流政之作 昭和58年

春待つ桜並木
[ 取材・撮影・文:ひろりん / 2023年3月17日 ]
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