「その時期にしか見られない」逸品を持つ美術館はいくつかありますが、東京で有名なのは、おそらくこの3点でしょう。GW前後の根津美術館《燕子花図屏風》、お正月の東京国立博物館《松林図屏風》、そしてこの三井記念美術館の《雪松図屏風》です(いずれも国宝)。
東京で暮らしていると当たり前のように思いがちですが、その気になれば気軽に国宝の逸品を見に行けるという事は、美術ファン冥利に尽きるというもの。今年も眼福のひとときを満喫させて頂きたいと思います。
今回の展覧会では、動物をテーマにした名品を同時に紹介。龍や獅子など想像上の動物も含めて、茶道具、絵画、工芸品などが並びます。
まずは茶道具から。十二支が象られた丸釜、兎を彫った楽茶碗、味わいがある象の香炉など。野々村仁清《信楽写兎耳付水指》は、公式サイトの写真では分かりにくいですが、横に回ると兎の耳が張り出しています。
国宝《雪松図屏風》は、例年のように展示室4の正面に鎮座しています。雪の中の松の姿を墨と金泥のみで表現した、円山応挙の傑作。雪の部分は紙の地色のため、雪景色にも関わらず「雪を描いていない」絵画でもあります。
展示室4の絵画は、他も見どころがたくさん。沈南蘋《花鳥動物図》は、全11幅のうち動物が描かれている6幅を展示。沈南蘋が描く動物は、どことなく不気味です。
長沢芦雪の《白象黒牛図屏風》は特別出品。同じ図柄は、エツコ&ジョー・プライスコレクションと、島根県立美術館にも所蔵されていますが、こちらは新出・初公開になります。
茶室「如庵(じょあん)」では、国宝《志野茶碗(銘卯花墻)》も展示。日本で焼かれた茶碗で国宝に指定されているのは、本阿弥光悦の白楽茶碗(銘不二山)と、この卯花墻の2碗のみです。
展示室5は茶道具と工芸品。これまであまり展示されなかった《唐三彩馬》や《銀製白鹿置物》のほか、自在や牙彫などの「超絶技巧」系の工芸も並びます。
《染象牙貝尽置物》は安藤緑山ですが、今まで「ろくざん」と読まれる事が多かった緑山は「りょくざん」が正しいとの事。近年ご遺族が見つかって、履歴が明らかになりました。
展示室7は絵巻・仮面・漆絵額など。《十二類合戦絵巻》は、十二支の動物たちvs狸+その一味(狼・熊・狐など)の合戦。《狂言面 狐》はとてもリアルな表現です。
象彦は今日まで続く京都の漆匠。4点紹介されている象彦の漆絵額の中で、大型の《遊鯉蒔絵額》は圧巻。餌に群がる鯉の姿を写実的に表現しました。
国宝《雪松図屏風》は年明けから登場する事もありますが、今年は会期中を通して展示中。ゆっくり観覧したい方は、年内のほうが良いかもしれません。お早目にどうぞ。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年12月13日 ]