2023年11月に皇居東御苑内に新たに開館し、皇室に受け継がれてきた多種多様な品々を紹介している「皇居三の丸尚蔵館」。
第1期「三の丸尚蔵館の国宝」、第2期「近代皇室を彩る技と美」につづいて、第3期となる「近世の御所を飾った品々」がはじまりました。
皇居三の丸尚蔵館 会場入口
第3期では、国宝・藤原定家《更級日記》をはじめ、近世までに京都御所や宮家に伝えられた品々が並びます。
まず紹介するのは、京都御所に伝来した2種の棚《菊花散蒔絵厨子棚》。近世の婚礼調度では、このような厨子棚には香道具や手箱、黒棚には化粧道具が飾られました。金銀の蒔絵で菊花を散らし、扉の金具が菊の花枝に形作られた姿は、宮中ゆかりの品であることを示しています。
《菊花散蒔絵厨子棚》江戸時代(18-19世紀)
京都御所に伝来した十種香箱。十種香箱とは組香で使用する道具を1つにまとめているもののこと。箱の中には、京焼の香炉や銀の火道具、唐木の香札、彩色された香包などが収められています。
《菊花散蒔絵十種香箱》江戸時代(18世紀)
江戸時代には国学が盛んになり、御所内の建物や儀礼をかつての姿に復興しようとする動きがおこりました。平安時代の調度を文献から学び、江戸時代後期に制作された八稜鏡や鏡台は、京都御所清涼殿における儀式の場を飾ったと考えられています。
《梨子地螺鈿蒔絵八稜鏡・台》江戸時代(18-19世紀)
隣の展示室に入ると目に留まるのは、19世紀の京都の狩野派の絵師・狩野永岳による衝立。表面は赤い装束を着けた舞楽「散手」、裏側には緑の装束の「貴徳」の舞姿が描かれています。 永岳は、京都御所の障壁画の制作、宮中や公家などの御用を数多くつとめました。
《散手貴徳図衝立》狩野永岳 江戸時代(19世紀)
八条宮智仁親王を祖とする旧桂宮家伝来の作品も展示されています。人物描写に桃山時代の狩野永徳の特徴が見れらる《源氏物語図屏風》は、元は襖絵だった作品です。
《源氏物語図屏風》伝狩野永徳 桃山時代(16-17世紀)
国宝《更級日記》は、鎌倉時代の貴族で歌人の藤原定家が写生した写本です。奥書には定家所持本の紛失により再度、書写した旨があります。後水尾上皇の仙洞御所に伝来し、後西天皇の遺物にも含まれる、京都御所伝来の品とされています。
国宝《更級日記》藤原定家 鎌倉時代(13世紀)
この季節にぴったりな糸桜(枝垂桜)を描いた金屛風は狩野常信によるもの。江戸時代初期に活躍し、3度にわたり京都御所の障壁画を手がけています。屏風に簾がはめ込まれ、向こう側を透かして見ることのできる工夫がされています。簾に描かれた糸桜の上品な表現からも、宮中の好みをうかがうことができます。
《糸桜図簾屏風》狩野常信 江戸時代(17世紀)
初公開となった作品も陳列されている今回の展覧会。第3期の会期は5月12日までですが、前期後期に分けて大規模な展示替えを行います。
皇居三の丸尚蔵館のコレクションをより広く知ってもらい、楽しんでほしいと話してた島谷弘幸館長。作品の撮影は可能ですので、皇居東御苑を巡りながら記念の1枚を撮ってみてはいかがでしょうか。
[ 取材・撮影・文:坂入 美彩子 2024年3月13日 ]
作品は全て皇居三の丸尚蔵館収蔵品です。