吉野石膏株式会社は、建築質材を中心とした石膏製品の製造・販売を行うメーカー。この分野でのシェアは国内一の誇ります。
同社の先代社長である須藤永一郎氏の代から、印象派を中心とする西洋絵画の収集をはじめました。本展では、印象派、そしてそれに続くフォーヴィスムやキュビスム、エコール・ド・パリなどの72作品を、時代順に鑑賞することができます。
19世紀半ば以前のフランスでは、歴史上の王侯貴族や聖職者を主人公とした絵画が描かれていました。画家は、美術アカデミーが審査を行う「サロン」に出展し、そこでの評価によって地位が確立されました。
しかし、19世紀後半になると、画家たちは室内から外へ目を向け、郊外で農民や風景を描くようになります。発表の場をサロン以外に求めて、展覧会を開いた若手芸術家が中心となり、誕生したのが「印象派」です。画家たちは、明るい色彩と素早い筆致で、それぞれ独自の表現を展開していきます。
クロード・モネの《ヴェルノンの教会の眺め》では、青とピンクを主調とした淡い色彩で、光を浴びる町並みやさざ波の立つ水面を絶妙なタッチで表現。一方、カミーユ・ピサロの《モンフーコーの冬の池、雪の効果》は、木の幹と枝が前景を占める大胆な構図で、浮世絵の影響を受けた様な作風です。
ピエール=オーギュスト・ルノワールは、人物と植物の色の対比を効果的に使い、暖かみのある柔らかな筆遣いが特徴。本展ポスターにもなっている《シュザンヌ・アダン譲の肖像》は、パステルで描かれ、他の油彩の6作品との質感の違いを楽しむこともできます。
印象派の表現に影響を受けた画家に、フィンセント・ファン・ゴッホがいます。それまでのファン・ゴッホは、暗い色彩で農民生活をテーマに制作していましたが、印象派の色調に触れ、鮮やかな絵具で太く短い線を画面に厚く描く、独自の様式を確立しました。
20世紀前半、印象派の表現を吸収した次世代の画家たちが、実験的に新たな挑戦をして生まれたのがフォーヴィスムやキュビスムです。ジョルジョ・ルオーやパブロ・ピカソもその一人です。
ロシア出身のワシリー・カンディンスキーは、画面に幾何学的な形態を配置し、それらが浮遊している様な絵画空間を展開します。鮮やかな色彩の円や線、矩形が画面いっぱいに配置された作風は、見るものに一目でカンディンスキーだと分かる特徴があります。
1920年代になると、「エコール・ド・パリ」と呼ばれる作家が登場します。画家たちは、パリでのモダン・アートの影響を強く受けながらも、独自の作風を確立。モーリス・ユトリロやマリー・ローランサン、マルク・シャガールは、それぞれ異なる作風ながらも、写実に回帰しているという共通点があります。
「印象派」から「フォーヴィスム」「キュビスム」「抽象絵画」、「エコール・ド・パリ」と順を追って、質の高い作品を鑑賞できる今回のコレクション展。作品を楽しむだけでなく、時代の流れを改めて感じられる機会になるのではないでしょうか。
[ 取材・撮影・文:坂入美彩子 / 2019年10月29日 ]
 |  | 印象派の歴史 上
ジョン・リウォルド (著), 三浦 篤 (翻訳), 坂上 桂子 (翻訳) KADOKAWA ¥ 1,496 |