東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館「FACE展2018」
文 [エリアレポーター]
松田佳子 / 2018年2月23日
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術財団では、2012年度から公募形式の展覧会「FACE展」を行っています。今回は第6回目で、その授賞式と内覧会に行ってきました。
グランプリをはじめとして9点の受賞作を含む71点の作品が展示されていました。どの作品も作家の個性が豊かで、楽しい展覧会でした。
私が個人的に興味を持った作品をいくつかご紹介します。
(左から)阿部操《The beautiful day》、松本啓希《生命の痕跡》、仙石裕美《それが来るたびに跳ぶ 降り立つ地面は跳ぶ前のそれとは異なっている》
グランプリを受賞された仙石裕美さんの《それが来るたびに跳ぶ 降り立つ地面は跳ぶ前のそれとは異なっている》は、ピンクを中心にした鮮やかな色彩が見る側に迫ってきます。縄跳びをしている風景ですが、構図の面白さが躍動感をみごとに表現し、こちらまで跳躍しているような気分になる楽しい作品です。
(左から)井上ゆかり《ふたつの海》、阿部操《The beautiful day》
優秀賞を受賞された井上ゆかりさんの《ふたつの海》は、絵に近寄ってみると全体を見ている時には見つけられなかった人や物が次々と現れてきます。その多重の世界は何を意味するのか、そして手前に見えてくる犬たちはなんだろうとタイトルと照らし合わせながらイメージが膨らんでくる作品です。
(左から)邱仁添《晩餐》、赤松加奈《room407》
読売新聞社賞を受賞された邱仁添さんの《晩餐》は、丁寧に描かれたテーブルの上の料理や食器類に比べて、淡白な表情の人々が不思議な感じです。ナビ派のヴァロットンが表現した都会の不穏な雰囲気に似ているように感じました。
入選作も見応えがたっぷりあります。
(左から)池上真紀《命の器》、三毛あんり《グライアイ8》
上の2作は日本画のカテゴリーに入るのでしょう。池上真紀さんの作品は、画面いっぱいに描かれた質感のある物体を左から追っていくと右にやっと頭が見え、それが河馬であることがわかります。河馬の分厚そうな皮膚の質感がタイトルの《命の器》を表しているのでしょうか。
また、三毛あんりさんの《グライアイ8》は、ギリシャ神話に出てくる1つの目を共有する3姉妹を描いています。この神話の意味を知らずに観ていたのですが、清楚で美しい女性たちが、たらいの中の目玉を掴んでいるさまがミスマッチで恐ろしさを倍増させています。
(左から)菅澤薫《匂いの痕跡》、藤澤洸平《It’s a only drawing, but I like it!》
菅澤薫さんの《匂いの痕跡》での、カーテンのように干されたカラフルなストッキングの中に埋もれた女性は、嗅いだ匂いに何を感じるのでしょうか。洗っても落ちない肉体の匂いの痕跡を確かめているのでしょうか。
藤澤洸平さんの《It’s a only drawing, but I like it!》の劇画の怪獣のような物体に描かれた模様の細かさは驚くべきものです。ひとつひとつの模様を見ていると、日本古来の螺鈿細工の美しさのようにも思われてきます。
年齢、所属を問わないこの公募展には、まさに多彩な表現があります。みなさんはどのような作品がお好みでしょうか。お気に入りの新進作家さんを見つけるのも楽しい展覧会です。
エリアレポーターのご紹介
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松田佳子
湘南在住の社会人です。子供の頃から亡き父のお供をして出かけた美術館は、私にとって日常のストレスをリセットしてくれる大切な場所です。展覧会を楽しくお伝えできたらと思います。
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