屋外での自然観察をベースに、風景や田園生活を描いたハーグ派。その作品を展観すると、同時代のバルビゾン派からの影響を抜きには語れません。本展でも序章として、まずバルビゾン派の作品が紹介されます。
バルビゾン派は、1830年代~70年代にフランスのバルビゾン村に集まった画家たちによる芸術家グループ。コローやルソー、ミレーなどで知られています。
神話や宗教、英雄などを主題にしていたそれまでの絵画と異なり、身近な風景やたくましく生きる農民などをそのままの姿で描画していったバルビゾン派。自然と向き合って屋外の光を画面に取り入れた表現は、新しい時代の絵画として多くの支持を集めていきました。
序章「バルビゾン派」続いてハーグ派の作品です。北海に面したハーグは、アムステルダムとロッテルダムに次ぐオランダ第3の都市。産業革命後に都市化が進んだ両市とは異なり、19世紀になるまで田園が残り、干拓地や海岸など豊かな自然を有する町でした。
鉄道が普及すると各都市と結ばれ、大いなる田舎でありながら都市にも近い環境は、バルビゾンそっくり。ハーグにも同様の主張を持つ画家たちが集まるようになりました。
「ハーグ派」バルビゾン派との類似を意識せざるを得ないハーグ派ですが、大きな違いは、この地がオランダである事。ハーグ派の人々は新しい絵画の中にも、レンブラントやフェルメールを生んだ17世紀のオランダ黄金時代の伝統を重ね合わせていきました。
その顕著な例が、室内画です。農民や漁民の日常生活を描いた作品はバルビゾン派のミレーの影響を感じさせる一方で、「窓から光が差し込む室内画」の構図は、言うまでもなくフェルメールの十八番です。
バルビゾン派と明確に異なる作品として、海景画もご紹介しましょう(バルビゾンは内陸なので、海の絵はありません)。漁船を入れた穏やかな漁の姿とともに、漁民の労働や日常にもスポットを当てています。
「ハーグ派」終章ではゴッホとモンドリアンが紹介されています。ハーグ派は19世紀後半には求心力を失っていきますが、ハーグ派にルーツを持つ二人のオランダ人画家は、近代美術史に大きな足跡を残しました。
ハーグに住んでいた事があり、この地で絵画を学んだゴッホ。この時代のゴッホの書簡では、ゴッホが尊敬してやまなかったハーグ派の芸術家たちについて、繰り返し言及されています。
最初期の抽象絵画家であるモンドリアンも、ハーグ派から強い影響を受けた一人です。1890年代にはハーグ派の作品を模写し、ハーグ派でも多く描かれた風車も描きました。展示されている風車の絵は色彩の単純化が進んでおり、モンドリアンの代名詞である幾何学的抽象への萌芽を見ることができます。
終章「フィンセント・ファン・ゴッホとピート・モンドリアン」本展は全国を回る巡回展で、昨年7月から始まった山梨展を皮切りに、新潟展、広島展、山口展、福島展、
損保ジャパン東郷青児美術館と続き、福井展が最後の巡回となります。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2014年4月17日 ] |  | 西洋の美術
菊地 健三 (著), 島津 京 (著), 濱西 雅子 (著) 晶文社 ¥ 3,240 |