
お笑い芸人が相手のオチに椅子から落ちたり床に転げたりするかのように。それは、作品《寸前に我なし》を前にした時の私、まさにそれです。
水の入ったコップに手を伸ばしている子供を描いた作品かと思っていたら、「酒を手にする寸前」との説明書き。そうか、そっちか。自分の見方とのギャップに吹き出します。
和歌山県立近代美術館で毎年開催される「なつやすみの美術館」シリーズ。第10回目となる今年は、和歌山県出身の美術家田中秀介さんをゲストに迎え「あまたの先日ひしめいて今日」展が開催されています。

《普段落景》2019年 油彩、キャンパス 個人蔵
「こんな大きなクローバー見たことない。」
当たり前ですと不審げに言われそうですが、《普段落景》からは、そんな感想がでてきました。
淡い印象の画面に優しく誘導され近づいた次の瞬間、一気にアンバランスな奇妙な世界へ落とされたのです。やられました。

《こ》2017年 油彩、キャンパス 個人蔵

《石代わり》2018年 油彩、キャンパス 個人蔵
知っているけど、知らない。見たことあるけど、見たことない。田中さんの描く世界です。
≪黙光≫に描かれた人物もどこから見た角度を描いているのかと画家の視点を探りたくなります。
キャンパスの下を持ち上げて斜めに見たら、普通に見えるかもしれない……そんな突飛なことを想像してしまいました。絵画を見てこんなことを思うなんて、それにも驚きます。

展示風景
さらに興味深いのは、田中さんが付けた各作品へのコメントです。
本人の作品にはもちろん、一緒に展示されているコレクション作品にも独り言のような、かつ独特な文章が添えられています。
三木富雄の耳の立体作品や横尾忠則、元永定正、石垣栄太郎など個性的な作品たちも、彼のコメントを通すといつもの印象とは違って見えます。
展覧会全体がまとまっているのは、このコメントが作品同士を繋げていることも一つの要因でしょう。

《化門》2018年 油彩、キャンパス 個人蔵
油彩で描かれているとは思えないような軽さと淡さの作品たちには、光に満ちた幻想的空間が広がっています。
でも画面の中の景色は、目の前にあるそのものです。自分自身、毎日の世界をどんな風にみていたんだろうと反省も込めて自問自答します。
自分で見て、自分で感じる——自分の軸をもっと深く強くしたい。
じんわりと熱くなります。「田中秀介軸」が教えてくれました。
エリアレポーターのご紹介 | カワタユカリ 美術館、ギャラリーと飛び回っています。感覚人間なので、直感でふらーと展覧会をみていますが、塵も積もれば山となると思えるようなおもしろい視点で感想をお伝えしていきたいです。どうぞお付き合いお願いいたします。
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