19世紀末のヨーロッパ各地で「象徴派」とよばれる芸術運動がさかんになります。これは近代の合理主義文明が、科学の進歩と物質的な富の追及に邁進し、不合理で矛盾に満ちた人間の内面性を切り捨てようとしたことに逆らい、豊饒な精神の世界を開拓し、目に見えない真理や人間の情念を表そうとした運動でした。象徴派は文学や音楽から美術までを巻き込んだ芸術の一大ムーヴメントとなり、象徴派の画家たちは、文学や伝説、神話などに題材を借りて、自らの想像力や夢見る力を解き放ち、詩的な風景、理想化された過去への憧憬、無意識の世界、そして時には不安や悪夢といった幻想を作品の中に登場させました。ギュスターヴ・モローやオディロン・ルドンなどは、フランス象徴派の第一世代の画家にあたり、日本では彼らの作品は人気が高く、よく知られていますが、彼らに続くフランス象徴派の第二世代にあたる画家たちについてはこれまであまり紹介されてきていませんでした。
1999年から、ブリュッセル、マドリード、パリで「魂の画家たち」という展覧会が開催され、大きな反響を呼びましたが、これは、パリの個人コレクターが所蔵するフランス象徴主義のコレクションを中心に、約40人の画家、彫刻家の作品を紹介したものでした。本展はその内容を再構成し、日本では今まであまり紹介される機会のなかったフランス象徴派の全貌を明らかにしようとするものです。
本展覧会は、夢と幻想、情念と真理といった、人間が内に秘めた豊かな精神世界を表現しようとした19世紀末の幻想芸術、フランス象徴派の世界を全123点の作品から紹介する貴重な機会となります。皆様お誘い合わせの上、ぜひご鑑賞ください。