《原爆の図》を描いた反戦画家--丸木位里・丸木俊夫妻の画業は、このように紹介されることが多くあります。
たしかに《原爆の図》は様々な意味で二人にとって生涯の代表作と言えますが、それぞれ一人の画家として見た丸木位里の仕事、丸木俊の仕事は、とうてい《原爆の図》という共同制作の一形式だけで語ることはできないほど奥行きの深いものです。20世紀初頭の前衛美術シュルレアリスムの影響を強く受け、水墨画の実験的表現で同時代の芸術家に大きな衝撃を与えた丸木位里。
戦前の南洋体験で明るく伸びやかな色彩と人体表現を獲得し、戦後女性の解放と共に力強い油彩画や絵本作家としても豊かな力量を発揮した丸木俊。《原爆の図》はこうした二人の、それぞれ独立した画家としてのたしかな力量が基盤となった上に成立している共同制作なのです。
その一方で《原爆の図》による共同制作を体験したことが、その後の二人の個人制作に少なからぬ影響を及ぼしていることもまた明確な事実です。個人制作あっての共同制作であり、共同制作あっての個人制作でもある。そうした丸木夫妻の画業の特異性を、今回の企画展では、二人の出会いまでさかのぼりながら、計40点ほどの個人作品を中心に未公開資料をまじえて紹介していきます。