加山又造(1927~2004)は、1949年に東京美術学校(現在の東京藝術大学)を卒業後、山本丘人に師事し、当時画集や雑誌の輸入によって間接的に触れたアンリ・ルソー、パウル・クレー、ピカソ、ホアン・ミロなどに影響された色彩や表現で絵を制作していました。1958年に後の華やかな琳派風屏風作品につながる「夏の涛」「冬の涛」を発表、それから1970年くらいにかけて屏風作品を中心に発表し続け、風景画、花鳥画などの小品を作りながら1972年には初めての裸婦作品「波斯猫」を発表、画壇に話題を呼びました。1980年代からは北宋画に影響され、独自の技法で水墨画に迫った倣北宋水墨シリーズなどを制作、その他にも扇面、陶磁器、染織、版画、デザイン・・・などといった、絵画という枠に囚われない表現形式に次々と挑戦し、常に作家自身の新しい分野を切り開くのと同時に、戦後の日本美術界に衝撃を与え続けてきました。その活動は日本だけにとどまらず、ニューヨーク、パリ、北京、ロンドンなどの美術館で展覧会を開催し、世界にも活躍の場を拡げました。1997年には文化功労者として顕彰され、1999年に第6回井上靖文学賞を受賞、2003年に文化勲章を受章しましたが、2004年4月惜しまれながら帰らぬ人になりました。
その後、生前の作家の意志、またご遺族の協力によって、6000点に及ぶ制作に関わる資料が多摩美術大学に寄贈され、それに伴い将来的には加山又造アーカイヴを造り、資料と情報の一般公開をするという目的で2005年4月に「加山又造研究会」が発足し、その研究成果を展覧会というかたちで発表することになりました。
本展では第一回研究発表展として、本学絵画学科版画専攻教授・渡辺達正の銅版原版研究によって明らかになった独特な手法の解説と共に「ほね貝と千鳥」「蜘蛛と蝶」等の代表的な銅版作品6点とその原版がご覧いただけます。
また、作家の様々な表現のうち水墨画と銅版画に焦点を当て、北宋水墨画に着想を得、作家の目を通して描かれた現代の水墨作品「倣北宋水墨山水雪景」をはじめ、その制作資料の中から軸装を終えたばかりの大下絵や小下絵、中国に取材したデッサンなどを約15点、銅版画では、刷りの過程でできる墨版や色版、テスト刷りを約30点展示します。作品の裏に隠された工夫や効果、一つの作品が出来上がるまでの工程をたどっていただけることと思います。