1956年・東京生まれのO JUN。ミヅマアートギャラリーなどでの活動は良く知られていますが、美術館レベルでの大規模個展は東京では初開催です。
府中市美術館では2002年に「眼の、前に」と題した公開制作を行っており、その際に子どもを描いた《其の児》《此の児》から、展覧会は始まります。
会場入口から淡い色の日本地図と、その手前に巨大なクッキーを描いた《沿岸図》。政治的・軍事的な意味を持つ領土の境界と、もろくて卑近な食べ物であるクッキーという対照的なモチーフを同一面に置き、帰属意識やアイデンティティについて問いかけます。
それぞれの絵は、ガッチリした鉄のフレームとガラス板で額装されています。O JUNによると、実在する品々を平面に置き換えた絵画は、極めて不自然なもの。リアリティのある額縁で覆うことで、表面上の出来事である事を強調しています。
1章〈O JUN的世界〉。日本地図を描いた10点組は《沿岸図》O JUNは東京藝術大学では油絵を学びましたが、パフォーマンスを行うほか、画材も鉛筆、クレヨン、水彩など多彩。逆に、ドイツ滞在を挟む1990年代は油絵具は用いませんでしたが、2002年頃から再び油彩も手掛けるようになりました。
土産物の絵ハガキを元にした作品、飛行機の窓から見た景色など、描くものは具体的ですが、作中にある大きな余白のためか、何かがスッポリと抜けたような、不思議な感覚も漂います。
2章〈後戻りする風景〉4章は最新作の〈川に、〉。震災半年たって制作が進まなくなったO JUNが、
以前買っていたノンフィクション作品を読んで手がけたシリーズです。
作品のテーマは2000年に発覚した
新潟の少女監禁事件。ベッド上での足踏みしか許されないまま、9年間にわたって二階の一室に幽閉されていた事件は、大きく報道されました。
「しかし彼女はその絶望的な時間と場所からたった一人で生還してきた。その事実がわたしを強く叱りつけた」と、図録で語るO JUN。おぼつかない足取りで、階段を下ってゆく《オリルコ》。胸がしめつけられる思いがします。
4章〈川に、〉鉄フレームに入った作品は重量があるため、会場を選ぶという事情もあるようですが、注目作家の大型展にも関わらず、巡回はせずに
府中市美術館だけでの開催です。
関連企画として3回の対談の他、1月25日(土)には画家・映像作家の石田尚志とO JUNによるパフォーマンスが、エントランスホール内の特設会場で行われます。いずれも予約不要、詳しくは
府中市美術館の公式サイトでご確認ください。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2013年12月25日 ]