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    ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開
    アーティゾン美術館 | 東京都

    縦2メートル、横1メートル余り、何も描かれていない真っ黒い絵画。1950年代アメリカで展開した抽象表現主義の画家アド・ラインハートの作品、タイトルはずばり「抽象絵画」。見る者に困惑と謎を投げかけやがて瞑想的な雰囲気へと誘う。

    目の前の描く対象を画面からいかに消失させるかに力点を置き、自由な線・色・形・フォルムによって構成された抽象絵画。その誕生から展開そして未来を探る展覧会が開催されている。

    アーティゾン美術館でおよそ250点を紹介する「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開」、150点の財団のコレクションに国内外の作品を加えた大規模な展覧会だ。

    今回の展覧会の最初に紹介されるのはポール・セザンヌの「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」、クロード・モネの「黄昏、ヴェネツィア」、そしてパブロ・ピカソやジョルジュ・ブラックのキュビスム絵画だ。

    19世紀末からから20世紀にかけて誕生したフォービズムやキュビスムから誕生した抽象絵画。これまで画家ごとにあるいは歴史で区切って紹介されることの多かった抽象絵画だが今回はその全体像を知ることができる。



    外観



    展示風景


    対象を完全に抽象化した抽象絵画の創始者の一人ともいわれるのが、チェコ出身のフランティセック・クプカやフランス出身のロベール・ドローネーだ。クプカの「赤い背景のエチュード」やドローネーの「街の窓」は対象を完全に切り離し、重なり合う色彩のリズム感や動きで構成されている。



    フランティセック・クプカ 《赤い背景のエチュード》 1919年頃 石橋財団アーティゾン美術館



    ロベール・ドローネー 《街の窓》 1912年 石橋財団アーティゾン美術館


    具象絵画から抽象絵画への展開。一人の画家でその過程がよくわかるのがロシア生まれのヴァシリー・カンディンスキーの作品だ。

    ヨーロッパを巡ったあとミュンヘンの南のムルナウと呼ばれる村で多くの作品を残したカンディンスキー。村の自然や町を様々な手法で描いているが、比較的初期の作品の一つ1908年の「3本の菩提樹」はまだ対象となる村の道や木々が具象的に描かれ、村のたたずまいがわかる作品だ。しかしその色遣いはどこかその後のカンディンスキーの抽象絵画を彷彿とさせるものを感じさせる。



    ヴァシリー・カンディンスキー《3本の菩提樹》1908年 石橋財団アーティゾン美術館


    そして6年後の作品「E.R.キャンベルのための壁画No.4の習作(カーニバル・冬)」。事物の形態は完全に消失し、色彩が画面いっぱいに広がる。その後の「自らが輝く」は鮮やかな色彩と同時に黒で描かれた曲線と直線が織りなす典型的なカンディンスキーの抽象画だ。

    対象から逃れ内的なものの表現へと移行したカンディンスキー。その背景には20世紀初頭という大きく変化した人類の世界観、自然観がある。それまでの描き方に満足できなかったカンディンスキーが作った前衛的な画家たちの集団「青騎士」についての資料も展示され、こうした画家たちとの交流もまたいかに絵画に大きな影響を与えたか知ることもできる。



    ヴァシリー・カンディンスキー 《「E.R. キャンベルのための壁画 No.4」の習作(カーニバル・冬)》 1914年 宮城県美術館



    ヴァシリー・カンディンスキー 《自らが輝く》 1924年 石橋財団アーティゾン美術館


    カンディンスキーと親交を深めたパウル・クレーやシンプルな線や色彩が印象的なピート・モンドリアンなどおなじみの抽象絵画も紹介されるが、もうひとつ今回の展覧会の大きな特徴の一つが日本の抽象絵画だろう。20世紀初めまだ日本に抽象絵画という名称さえなかった時代に版画により心の内側を表現しようとした恩地孝四郎からはじまり、長谷川三郎や岡本太郎、草間彌生、さらには関西で創立した具体美術協会の作品まで40点以上が展示される。



    セクション4 展示風景


    今回の展覧会で最も注目されるのが伝統を受け継ぎながらも新たな表現に挑む現役で活躍するアーティスト7人の作品だろう。

    自らを彫刻家と称する横溝美由紀はキャンバスの上で油彩を含ませた糸をはじいて無数のラインを引いた作品や床に展開したアルミニウムで構成したインスタレーションを出品、また髙畠依子はキャンバスに漆喰を塗ることで現れる抽象模様を作品化、さらに柴田敏雄の写真が今回の展覧会で紹介されているのも抽象絵画の概念の広がりを感じさせる。もはやキャンバスと油彩という従来の抽象絵画の概念を大きく超えた作風の数々には驚かされる。

    20世紀の初めに誕生した抽象絵画は今後いったいどのように受け継がれ展開していくのだろうか。今回展示された約250点という膨大な作品を見ていると抽象絵画というアートの力がこれからの新しい21世紀美術の流れを生みだす原動力ともなるのではないかとさえ思えてくる。



    柴田敏雄 (左から)《群馬県沼田市》 2022年 作家蔵 / 《山形県尾花沢市》 2018年 石橋財団アーティゾン美術館



    横溝美由紀 (左から)《crossing P150.081.2023-five elements, fire》 / 《crossing P150.082.2023-five elements, water》 いずれも2023年、作家蔵



    高畠依子《CAVE》 2022年 作家蔵



    若手現役作家 集合写真

    [ 取材・撮影・文:小平信行 / 2023年6月2日 ]


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    会場
    アーティゾン美術館
    会期
    2023年6月3日(土)〜8月20日(日)
    会期終了
    開館時間
    10:00ー18:00(8月11日を除く金曜日は20:00まで)*入館は閉館の30分前まで
    休館日
    月曜日(7月17日は開館)、7月18日
    住所
    〒104-0031 東京都中央区京橋1-7-2
    電話 050-5541-8600(ハローダイヤル)
    料金
    ウェブ予約チケット
    1,800 円 ※クレジット決済のみ
    当日チケット(窓口販売)2,000 円
    学生無料 ※要ウェブ予約
    展覧会詳細 ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 詳細情報
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