日本の現代アートシーンの中でも異色の存在といえる吉村芳生。本展は、中国・四国以外の美術館では初めて開催される個展です。
吉村は山口県防府市生まれ。広告デザイナーとして働いた後、勤めを辞めて版画を学び、美術家の道へ進みます。
会場冒頭には、全長17メートルに及ぶ金網のドローイング。初個展の作品です。見慣れたモチーフを忠実に写し取る行為は、吉村が生涯を通じて取り組む事となります。
吉村は、その制作手法も独特です。《ジーンズ》は、撮影したジーンズを拡大し、マス目を引いて濃淡別に0~9に分け、「2なら斜線3本」というルールに則って、黙々とマス目を埋めて描きました。
感情を完全に排除し、機械的に制作を進める事を、「機械文明が人間から奪ってしまった感覚を再び自らの手に取り戻す作業」と語っています。
下のフロアに下りると、イメージは一変。コスモス、バラ、ケシ、フジなど、色鉛筆で花を鮮やかに描いた作品が並びます。
1985年に郷里の山口に移住して以降、モノクロ表現に息詰まった吉村。新たな題材になったのが花で、120色の色鉛筆を駆使して、精緻な花を描きました。ただ、花の作品も、マス目ごとに写真から拡大・転写する手法を取っています。
菜の花を描いた《未知なる世界からの視点》は、全長10m22cmの大作。川面に写る花を描いた上で、上下をさかさまにして完成としました。
会場最後が「自画像の森」。吉村にとって自画像はライフワークともいえる画題で、図録では「世界で最もたくさん自画像を描いた画家」と紹介されています。
《新聞と自画像》シリーズは2パターンあり、大きな作品は約2.7倍に拡大された新聞そのもの(文字・写真・広告など)も手描き。もうひとつは既存の新聞の上に自画像を描くパターンです。
2009年の元旦から1年間は、新聞(全国紙・地方紙・英字新聞など)を近所のコンビニで毎日購入。364枚で1セットの作品です(1月2日は新聞休刊日)。自画像はカメラで顔を撮影して描き写しています。表情は新聞の内容と連動しており、時おり表情が緩んでいる時もあります。
一転して硬い表情は、1年間のパリ滞在中に描かれた、2011年12月からの自画像。ホームシックで部屋に閉じこもることが多かったそうで、心境が伺えます。こちらは写真は用いず、鏡を見て描いています。
展覧会サブタイトルが「超絶技法を超えて」とあるように、‘リアルな描写’だけではない吉村の作品。モチーフは穏やかですが、異様な執念が滲み出ているような迫力です。
東京ステーションギャラリーを皮切りに広島・京都・長野と巡回します。
会場と会期はこちらです。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年11月22日 ] |  | 超絶技巧 美術館
山下裕二(監修),美術手帖編集部(編集) 美術出版社 ¥ 1,944 |