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    レポート
    ゴッホと静物画―伝統から革新へ
    SOMPO美術館 | 東京都
    17世紀から20世紀初頭までのヨーロッパの静物画の流れの中でゴッホを検証
    ドラクロワ、マネ、モネ、ピサロ、ルノワール、ゴーギャン、セザンヌなど
    《ひまわり》《アイリス》をはじめ全69点のうち25点がゴッホによる油彩画

    世界中で絶大な人気を誇るポスト印象派の巨匠、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853~1890)。ゴッホはさまざまなジャンルの作品を描きましたが、その中のひとつが《ひまわり》に代表される静物画です。

    17世紀から20世紀初頭までのヨーロッパの静物画の流れの中でゴッホを再定義し、あらためてその革新性に光を当てた展覧会が、SOMPO美術館で開催中です。


    SOMPO美術館「ゴッホと静物画 ― 伝統から革新へ」
    SOMPO美術館「ゴッホと静物画 ― 伝統から革新へ」


    展覧会は第1章「伝統 / 17世紀オランダから19世紀」から。花や果物、食器、狩りの獲物など、生命を持たない事物を描いた絵画が静物画です。市民階級が台頭し、経済的に発展したネーデルランドやフランドル(現在のオランダ、ベルギー)で、17世紀に確立しました。

    ゴッホ自身が油彩で静物画を本格的に手がけるのは、画家になる決意を固めた約1年後からです。人物を描く画家を目指していたゴッホにとって、静物画は絵画の技法を習得するための手段のひとつでした。


    SOMPO美術館「ゴッホと静物画 ― 伝統から革新へ」会場より (右手前)フィンセント・ファン・ゴッホ《麦わら帽のある静物》1881年 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands
    (右手前)フィンセント・ファン・ゴッホ《麦わら帽のある静物》1881年 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands


    静物画の中で、人生のはかなさや死を連想させる事物を描き、虚栄を戒めるメッセージを込めた作品は、ラテン語で「空虚」を意味する「ヴァニタス」と呼ばれます。

    命の短さを象徴する火の消えたロウソク、美のはかなさを暗示する萎れた花などが題材になり、特に頭蓋骨は「メメント・モリ(死を忘れるな)」の象徴として多くの作品に描かれました。


    SOMPO美術館「ゴッホと静物画 ― 伝統から革新へ」会場より (左)ピーテル・クラース(1597-1660)《ヴァニタス》1630年頃 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands
    (左)ピーテル・クラース(1597-1660)《ヴァニタス》1630年頃 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands


    第2章は「花の静物画 / 「ひまわり」をめぐって」。17世紀には花の静物画も盛んに描かれました。古くから宗教画に描かれてきたユリやアイリスなどのほか、新大陸からもたらされた植物や高価な園芸種などもモチーフになっています。

    チューリップは16世紀にヨーロッパに伝わり、17世紀のオランダでは人気の園芸種になりました。熱狂的な流行は、球根の暴落による「チューリップ・バブル」と呼ばれています。


    SOMPO美術館「ゴッホと静物画 ― 伝統から革新へ」会場より (左から)ピーテル・ファン・デ・フェンネ《花瓶と花》1655年 ギルドホール・アート・ギャラリー、ロンドン Guildhall Art Gallery, City of London Corporation / ジョルジュ・ジャナン《花瓶の花》1856〜1925年頃 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)
    (左から)ピーテル・ファン・デ・フェンネ《花瓶と花》1655年 ギルドホール・アート・ギャラリー、ロンドン Guildhall Art Gallery, City of London Corporation / ジョルジュ・ジャナン《花瓶の花》1856〜1925年頃 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)


    展覧会のメイン作品であるゴッホの 《アイリス》と 《ひまわり》は、ここに並んで登場します。 《ひまわり》はいつもと違う場所で展示されているので、SOMPO美術館ファンの方も、少し新鮮な気持ちで作品に向き合うことができると思います。


    SOMPO美術館「ゴッホと静物画 ― 伝統から革新へ」 第2章「花の静物画 / 「ひまわり」をめぐって」
    SOMPO美術館「ゴッホと静物画 ― 伝統から革新へ」 第2章「花の静物画 / 「ひまわり」をめぐって」


    《アイリス》は、サン=レミ=ド=プロヴァンスでの療養生活を終える頃に描いた、2点のアイリスの静物画のうちのひとつです。黄色と紫を対比させる色彩の試みとして描かれました。

    画面右の垂れた花は、《ひまわり》の構図にも共通しています。


    SOMPO美術館「ゴッホと静物画 ― 伝統から革新へ」会場より フィンセント・ファン・ゴッホ 《アイリス》1890年 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)
    フィンセント・ファン・ゴッホ 《アイリス》1890年 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)


    SOMPO美術館が誇る《ひまわり》は、「黄色い背景のひまわり」(ロンドン、ナショナル・ギャラリー蔵)をもとに、1888年11月下旬から12月上旬に描かれたものです。

    色彩や構図はロンドン版と同様ですが、筆遣いや色調に微妙な変化を加えています。


    SOMPO美術館「ゴッホと静物画 ― 伝統から革新へ」会場より フィンセント・ファン・ゴッホ 《ひまわり》1888年 SOMPO美術館
    フィンセント・ファン・ゴッホ 《ひまわり》1888年 SOMPO美術館


    第3章は「革新 / 19世紀から20世紀」。ポスト印象派の時代になると、画家たちは「見たままを写す」という印象主義の考えに疑問を持ち始め、絵画は大きな転換点を迎えました。

    ゴッホをはじめポール・ゴーギャン、ポール・セザンヌら「ポスト印象派」の画家たちは、静物画でも新しく自由なスタイルを展開していきます。


    SOMPO美術館「ゴッホと静物画 ― 伝統から革新へ」会場より ポール・セザンヌ(1839-1906)《りんごとナプキン》1879-80年 SOMPO美術館
    ポール・セザンヌ(1839-1906)《りんごとナプキン》1879-80年 SOMPO美術館


    《ばらと彫像のある静物》は、ゴーギャンがフランス北西部ブルターニュ地方の小村、ル・ブルデュで描いた作品です。

    ゴーギャンが滞在していた宿「ビュヴェット・ド・ラ・プラージュ(浜辺の食堂)」の食堂を描いたもので、花瓶の横に置かれた裸婦像はゴーギャン自身が制作。後に、宿の女主人に借金の返済の代わりに渡したというエピソードが伝わります。


    SOMPO美術館「ゴッホと静物画 ― 伝統から革新へ」会場より (右手前)ポール・ゴーギャン(1848-1903)《ばらと彫像のある静物》1889年 ランス美術館 Reims, Musée des Beaux-Arts
    (右手前)ポール・ゴーギャン(1848-1903)《ばらと彫像のある静物》1889年 ランス美術館 Reims, Musée des Beaux-Arts


    国内外25か所からの全69点が出展、うち25点はゴッホによる油彩画という豪華な展覧会。多くの作品は一般も撮影可能というのも、強調しておきたいポイントです。

    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2023年10月16日 ]

    (左から)ウジェーヌ・ドラクロワ《花瓶の花》1833年 スコットランド・ナショナル・ギャラリー The National Galleries of Scotland / アンリ・ファンタン=ラトゥール《花と果物、ワイン容れのある静物》1865年 国立西洋美術館
    カミーユ・ピサロ《丸太作りの植木鉢と花》1876年 松岡美術館
    (左から)フィンセント・ファン・ゴッホ《野牡丹とばらのある静物》1886〜87年 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands / フィンセント・ファン・ゴッホ《青い花瓶にいけた花》1887年6月頃 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands
    クロード・モネ《グラジオラス》1881年 ポーラ美術館
    (左から)フィンセント・ファン・ゴッホ《水差し、皿、柑橘類のある静物》1887年2月〜3月 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation) / アンリ・ヴァン・デ・ヴェルデ《静物》1886年 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands
    (左手前)フィンセント・ファン・ゴッホ《ヴィーナスのトルソ》1886年6月 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)Van Gogh Museum, Amsterdam (Vincent van Gogh Foundation)
    (左から)フィンセント・ファン・ゴッホ《皿とタマネギのある静物》1889年1月上旬 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー © 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands / ポール・セザンヌ《ウルビノ壺のある静物》1872〜1873年 上原美術館
    (左手前)ポール・ゴーギャン《花束》1897年 マルモッタン・モネ美術館 Musée Marmottan Monet, Paris
    会場
    SOMPO美術館
    会期
    2023年10月17日(火)〜2024年1月21日(日)
    会期終了
    開館時間
    10時~18時(ただし11月17日(金)と12月8日(金)は20時まで)
    ※最終入館は閉館30分前まで
    休館日
    月曜日(ただし1月8日は開館)、年末年始(12月28日~1月3日)
    住所
    〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1
    電話 050-5541-8600(ハローダイヤル)
    公式サイト https://gogh2023.exhn.jp/
    料金
    事前購入券
    一般 1,800 円
    大学生 1,100 円

    当日券
    一般 2,000 円
    大学生 1,300 円
    展覧会詳細 「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」 詳細情報
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