奈良・東大寺の北西に位置する正倉院。もとは東大寺の倉庫でした。
天平勝宝8歳(756年)6月21日、聖武天皇の四十九日にあたり、光明皇后が亡き天皇の冥福を祈り、遺愛の品などを東大寺大仏殿に献納。後に献納された品も含めて現在の正倉院北倉に納められ、これが現在まで伝わる正倉院宝物の中心になりました。
正倉院宝物は、中国や東南アジアはもちろん、シルクロードを経由して西アジアから伝わったものも多く、豊かな国際色が特徴です。今回は正倉院宝物に加え、明治時代に法隆寺から皇室に献納され、後に国に移管された「法隆寺献納宝物」(東京国立博物館蔵)も、あわせて展示していきます。
展覧会は6章構成で、第1章は「聖武天皇と光明皇后ゆかりの宝物」。正倉院宝物の中核で、《東大寺献物帳(国家珍宝帳)》に記された品々を中心に紹介されています。
赤と紺の小さな丸い石は、象牙製の碁石。直径1.5センチほどの大きさですが、ひとつひとつ丁寧に鳥の模様が掘り出されています。摩耗が見られないため、ほとんど使われてなかったと見られています。
第2章は「華麗なる染織美術」。正倉院宝物には膨大な数の染織品があり、唐で流行した華麗な唐花文の文様が数多く見られます。ただ、明治初期には染織の見本にするため、大久保利通が染織品の一部を切り分けて各地の博物館に送るという、今では考えられない事も行われています。
第3章は「名香の世界」。仏教において香木を炊く事は、供養の一つでもあり、大寺院には法要で用いられる香木が保管されていました。「蘭奢待(らんじゃたい)」の別称で知られる香木は、足利義政、織田信長、そして明治天皇が一部を切り取った事で有名です。
第4章は「正倉院の琵琶」。琵琶はペルシア由来ですが、五絃琵琶はインド起源の楽器。華麗な装飾の《螺鈿紫檀五絃琵琶》は、正倉院宝物を代表する品として知られます。五絃琵琶は現在は失われてしまったため、《螺鈿紫檀五絃琵琶》が世界唯一の実物です。
第5章の「工芸美の共演」では、法隆寺献納宝物と正倉院宝物が並べて展示されています。法隆寺は聖徳太子が推古天皇15年(607)に創建。東大寺は聖武天皇が天平勝宝4年(752)に大仏の開眼法要と、やや時代は異なりますが、両宝物には同じ用途のために作られたものも少なからずあります。
第6章の「宝物をまもる」では、文化財の伝承について。正倉院南蔵と中蔵の一部は原寸大で再現されており、迫力たっぷりです。1260年以上にわたって、貴重な品々を伝え続けている正倉院。宝庫や宝物の修理も幾度となく行われ、現在はX線や赤外線カメラなども用いて調査・点検が続けられています。
会期はほぼ1カ月と、平成館で行われる展覧会としてはかなり短め。しかも前後期で大幅な展示替えがあります(前期:10/14~11/4、後期:11/6~11/24)。お見逃しなく。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2019年10月13日 ]