日本における文化芸術の両極といえる「雅」と「俗」。雅は漢文学・和歌など伝統的文芸、俗は俳諧・歌舞伎などの新興芸能を象徴するものですが、雅と俗は対立する観念ではなく、さまざまなところで混在し、一方が他方を補って成立している場面もしばしば見られます。
「文雅」をキーワードに、雅俗が融和した18世紀の江戸絵画を展観する本展。出光美術館の館蔵品を中心に、約50件を5章構成で紹介しています。
第1章は「孤高の美学 ― 大雅・蕪村の競演」。文人(中国の高級官僚)が余技で描いた、文人画。プロの作品ではなく、画家の精神性が強く現れる事から、江戸時代の画家たちにとっては憧れの境地でした。ただ、日本に文人階級は無く、18世紀を代表する池大雅や与謝蕪村らがこれを模し、知的で味わいのある日本流の文人画を完成させています。
大雅と蕪村は同時代に活躍し、互いに交流を持っていました。二人の画風を比較すると、健康的で明るい色調を好んだのが大雅、シックで日本的情緒が強いのが蕪村です。
第2章は「文雅の意匠 ― 琳派のみやび」。琳派はデザイン面が強調されがちですが、きらびやかな描写は、古典=雅の理解を踏まえて成立しています。伝尾形光琳《禊図屏風》は、川辺で禊(みそぎ)をする男性がモチーフ。かなわぬ恋心を洗い清めようとする、伊勢物語からの引用と見なされます。
第3章「禅味逍遥」には、ユーモラスな表現の禅宗絵画が。禅宗では民衆への布教のため、分かりやすい絵説きが重用されました。自由闊達な禅画には、知識人たちが目指した「古拙」を感じ取る事ができます。
第4章は「王朝文化への憧れ」。俗そのもののように思える浮世絵にも、雅の側面があります。勝川春章《美人鑑賞図》は、中国で文人の集まりを描いた雅集図の構成に倣ったもの。画面の上部には、大和絵に見られる「すやり霞」も配されています。
最後の第5章は「幻想の世界へ」。次の時代への継承として谷文晁や浦上玉堂らが紹介されていますが、ひときわ目立つのが《群仙図屏風》。躍動感あふれる右隻は岸駒、穏やかな左隻は呉春による作画です。
公式サイトでも紹介されていますが、日程が合うなら担当学芸員の「列品解説」がオススメです。時間より早めに行って、まずは自分だけで観覧した後に、担当者の解説を聞けば、より理解が深まると思います。入館料のみで参加可能、事前申し込みも不要です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2018年11月15日 ]