長かった緊急事態宣言期間もついに開け、大阪市内の公立館もついに再開館しました。その中で会期末まで間もないのが、大阪市立東洋陶磁美術館で開催されている特別展「黒田泰蔵」です。

中之島の閑静な雰囲気の中にある美術館
この展覧会の特徴は、なんと言っても皆さんが持つ展覧会へのイメージをひっくり返す構成にあるでしょう。多種多様な、色とりどりの作品をイメージしてこられた方は度肝を抜かれるかもしれません。
そう、この展覧会に出品されている作品の全ては黒田泰蔵(1946-2021)の代表作である白磁、すなわち彩色されている作品ではないのです。更に作品の題名も《台皿》のように極めてシンプルなものばかりです。写真のような《円筒》と題された作品は実に11点にも登ります。
《円筒》
しかし黒田作品の特徴はそうした無機質さとは対極にある、それぞれの作品に見られる表情でしょう。一見無個性に見える白磁作品ですが、釉薬が施されていないゆえに作品の表面の質感を直接見ることができます。
厳選された産地の陶土を焼き上げ、入念にサンドペーパーで研磨して仕上げられた作品には、それぞれ異なる質感が生じており、作品の個性に還元されています。

《壺》の表面。独特の質感が写真でもわかる
3階の第1会場に始まる展覧会から、来客はひたすらこの形式の白磁を鑑賞することになります。しかし見ているうちに、今までどれほど色彩の鮮やかさや作品の題名に依存して作品を見てきたか気付かされるはずです。おそらくこうした鑑賞経験は今までも、今後もなかなか訪れないものでしょう。
比較的暗めの照明もまた、作品の質感を鑑賞する助けになっていることも見逃せません。

割れ目を入れてから焼成された《割台皿》
また白で統一された作品群からはある種の荘厳さも感じられます。黒田作品は年が降るにしたがってより簡素な形に、実用性を排した形状、大きさへと変遷を遂げていきました。《円筒》《割台皿》に代表されるこうした作品は非日常的なものであり、ファインアートの域に達した陶芸の極地といえるでしょう。
展覧会の最後で見ることができる新緑の中之島を背景にした展示で、どこか緊張感がほぐれた印象を受けるのは、黒田作品が持つ荘厳さ、緊張感ゆえのものでしょう。

中之島の風景に映えるひときわ大きい作品
加えて展覧会には作者の美意識を共有してもらうための仕掛けが随所に施されています。盟友の安藤忠雄が制作した自宅兼アトリエの図面の展示も見逃せないでしょう。加えて展覧会中のパネル、ビデオ映像もすべて本展覧会のためにアトリエで撮影されたものです。
こうした撮り下ろしの写真、キャプションにも掲載されているインタビューは展覧会図録にも掲載されています。ぜひお買い求めください(筆者が編集した資料一覧、年表もご覧ください)。

展覧会図録(5000円)
なお、作者の黒田泰蔵氏は本展会期中の4月13日にご逝去されました。謹んでご冥福を祈りつつ、末筆とさせていただきます。
[ 取材・撮影・文:安積柊二 / 2021年6月23日 ]
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