東福門院入内図屏風(重要文化財,江戸時代・17世紀)
三井記念美術館で『自然が彩る かたちとこころ』と題された展覧会が開催されてい ます。
ドリス様式の円柱が印象的なオフィスビル「三井本館」は、昭和初期の日本を代表 する洋風建築として重要文化財に指定されています。その最上階に設けられた美術館 には、江戸時代以来約350年、三井家各家に伝わる美術品が貴重な文化遺産として収蔵 されています。
本展覧会終了後にはリニューアルのための長期休館へ。 東洋・日本美術に表されたさまざまな「自然のすがた」をテーマに、“コレクショ ンの中でも選りすぐりの名品を鑑賞できる休館前最後の機会”と聞き、襟を正して見学 に行ってきました。
“自然”というキーワードをファインダーに名品の世界を巡る
展示室1(茶道具) 三井記念美術館の所蔵品は4千件を超え、茶の湯に関わるものが半数を超える
本展覧会では自然がどのように美術に表現されているのか、9つのアプローチで作 品が紹介されています。
最初の展示室に入ると、自然に関連する銘が付けられた茶道具が並んでいました。 自然を愛でる感性溢れる宝物。
続く展示室2では重要文化財・黒楽茶碗 銘雨雲、展示室3では国宝・志野茶碗 銘 卯花墻を見学できます。
左:黒楽茶碗 銘雨雲(本阿弥光悦作,重要文化財,江戸時代・17世紀) / 右:志野茶碗 銘卯花墻(国宝,桃山時代・16~17世紀)
理想化された自然に思いを馳せる
日月松鶴図屏風(重要文化財,室町時代・16世紀) 時空を超越した曼荼羅的世界
展示室4に進むと、重要文化財・日月松鶴図屏風が広々とした空間に展示されてい ました。
一双の屏風に、春から秋の草花や太陽と月も描かれ、季節や昼夜を超越した世界が 広がっています。
古くから私たち人間は、芸術の見せる理想化された自然に心の救いを求めてきました。作品全体をゆったりと鑑賞し、実在しない理想郷に思いを馳せると、心も不思議 と穏やかに……。
素材を活かして表現された“風”を感じて
秋草に兎図襖(酒井抱一筆,江戸時代・19世紀) なびくススキとは反対方向に飛び出す白兎の姿が印象的
「素材を活かして自然を表す」というテーマの展示では、下地にへぎ板を施した襖が 紹介されていました。
襖全面にごく薄い板を貼り、筆線は使わず“野分の強風を見立てる”という見事な 趣向です。正面に立つと、江戸時代の野に吹く風を疑似体験できるようでした。
心躍る超絶技巧
染象牙果菜置物(安藤緑山作,明治~昭和時代初期・20世紀) 象牙を彫って作られている
展示室5に進むと、本物とみまがうばかりに表現された“自然”の姿に心が躍りま した。
その著色法は秘伝。安藤緑山氏が生み出した牙彫の数々は、明治から昭和初期にか けて富裕層を中心に愛玩されたそうです。
自然をデフォルメして表す
中:紅白萌黄段扇面秋草観世水模様唐織(明治~大正時代・20世紀) 観世水に扇が舞う華やかな唐織
食器や家具、着物などには、自然のモチーフをデフォルメしたデザインが施されま す。
能舞台の華、唐織。紅白萌黄段扇面秋草観世水模様唐織の渦を巻くようなデザイン は、水の流れを文様化した観世水(かんぜみず)を表現したもの。流水や草花が金彩・ 色彩豊かに強調された模様は、ふっくらと大変豪華で、一目で心を奪われました。
設えの美しさも大きな魅力
最寄り駅は三越前駅。A7出口を出てすぐ。日本橋三井タワー1階アトリウム経由で美術館専用入口へ
三井記念美術館は、東京・日本橋にあります。
レトロなエレベーターをはじめ、設えの美しさもとても素敵です。 出口すぐのミュージアムショップには、図録や関連書籍はもちろん、ミニ屏風や扇 子などのオリジナルグッズや特別な工芸品も並んでいました。
参考資料:図録「三井家伝統の至宝」(三井記念美術館,2015)
[ 取材・撮影・文:晴香葉子 / 2021年7月9日 ]
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