兵庫県出身のイラストレーター、中村佑介(1978-)。ASIAN KUNG-FU GENERATIONのCDジャケット、『謎解きはディナーのあとで』の書籍カバー、浅田飴やロッテのチョコパイのパッケージと、各所で大活躍中の人気イラストレーターです。
2002年からイラストレーターとして活動を始め、今年でちょうど20年。中村がこれまで携わってきた仕事のほぼ全てが一堂に会する展覧会が、東京ドームシティ ギャラリー・アーモで開催中です。

ギャラリーアーモ「中村佑介20周年展」会場入口
会場は4人組ロックバンド「ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下AKG)」のセクションから始まります。
両者の出会いは、まだ 20人ぐらいの客の前でAKGが演奏していた時代です。AKGの後藤正文(ボーカル・ギター)に、ファンが中村のポストカードを渡したところ、後藤が惚れ込んでアルバムジャケットを依頼。以降、長きに渡って両者のコラボは続いています。

「ASIAN KUNG-FU GENERATION」セクション
音楽のジャンルはだいぶ異なりますが、さだまさしのデビュー40周年とソロコンサート4000回を記念した3枚組アルバムも、中村の仕事です。
構想・制作にそれぞれ約1ヶ月をかけた「天晴〜オールタイム・ベスト〜」は、畳、障子、富士山、亀と鶴など、日本的な要素が混在したイメージ。
その後リリースされた” 迷曲”をあつめた「御乱心〜ホールタイム・ワースト〜」は、「天晴」と対比させた要素を散りばめて、裏ベスト盤ならではの世界に仕上げました。

「さだまさし」セクション
AKGとともに初期の代表作と言えるのが、小説家の森見登美彦の書籍カバー。編集者とデザイナーが“乙女ちっく”な装丁を求め、辿り着いたのが中村のイラストでした。ノスタルジックな和のテイストは、中村の存在感を決定づけました。
『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』はアニメ化され、中村はキャラクターデザインやDVD のジャケット制作も担当しています。

「森見登美彦」セクション
『謎解きはディナーのあとで』の書籍カバーは中村の代表作ですが、当時の中村にとっては新たな挑戦。コミカルなキャラクターが登場する東川篤哉の作品に対し、よりユーモアが感じられる作品として描かれました。
著者の東川はラフを見て、自分の描いた主人公に初めて出会えたような新鮮な喜びを感じたといいます。

「東川篤哉」セクション
さまざまな書籍の装画を手がけている中で、中村自身もターニングポイントとしているのが、教育芸術社から出版された高校の音楽の教科書です。
ラフでは脇腹の部分が少しだけ覗いていましたが、完成版ではチャックを締め、スカート丈も長くなるなど、教科書ならではの変更も行われています。

「OTHER BOOKS」セクション
文芸誌「きらら」の表紙カバー絵は、2009年から担当。雑誌の表紙絵は「週刊文春」の和田誠、「週刊新潮」の谷内六郎など、雑誌の顔を担う存在であり、中村はかねてから憧れていた仕事でした。
どんな服装を着せるべきか、どんな化粧をさせるべきか。制約無く描き続けられた仕事で、中村が考える「かわいい」が具現化され続けました。

「きらら」セクション
「PORTRATION」(ポートレイトとイラストレーションをあわせた造語)のコーナーでは、対象をユーモラスに捉える作品が目立ちます。
美術家の会田誠を描いた作品は、会田の代表作である《あぜ道》の世界をひっくり返したもの。
会田の《あぜ道》は、後ろ姿のセーラー服の女学生の髪の分け目が、そのままあぜ道につながっている作品ですが(この作品も東山魁夷の《道》へのオマージュです)、中村のイラストでは、前から見ると女学生は会田本人だった、というオチがついています。

「PORTRATION」セクション
中村は、ハローキティやビックリマンなど、さまざまなキャラクターとのコラボレーションも行なっています。
AKB48の柏木由紀とのコラボレーションは、「ビックコミックスピリッツ」の企画。柏木由紀が得意とする折り紙を散りばめたり、「メールの返信が遅い」という柏木の特徴をスマホの水没で表現したりと、細かなディテールでファンを喜ばせました。

「COLLABORATION」セクション
会場には、中村佑介がデビューするまでに描いた学生時代の作品もあります。
高校時代のデッサンや、大学時代の課題作品など。現在の作風とは大きく異なり、ここから今のスタイルに至ったのかと思うと、とても興味深く思えます。

「HISTORY」セクション
思春期の頃の中村は、女の子の目を見て話せなかったどころか、あいさつすらままならなかったといいます。直視はできなくとも、その横顔をじっくり見ることができたためか、中村の初期作品にはセーラー服姿の女の子、しかも横顔がしばしば見られます。
中村にとっては、その女の子は自分の分身でもあり、「クラスの端っこでひとりで座ってるような女の子」を描いています。

「セーラー服コンプレックス」セクション
中村佑介の名前は知らなくても、その作品は必ずどこかで目にしているはず。どの作品を見ても、中村ならではの感性に溢れています。
オフィシャルショップには限定グッズも数多く用意されていました。ファン必見の展覧会です。
[ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2022年11月8日 ]