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    レポート
    三輪龍氣生の陶 命蠢く
    菊池寛実記念 智美術館 | 東京都
    江戸時代から続く萩焼の陶家の出身、家督を譲って新たな創作の境地へ
    人間の根源に迫る陶の造形、初期から改号後の新作まで79点の三輪ワールド
    もがき苦しむ苦悩、官能の歓び、母性への憧憬…心情や興味を陶で造形化

    生命感あふれる陶の造形で知られる、三輪龍氣生(みわりゅうきしょう 1940−)。江戸時代から続く萩焼の名門陶家に生まれ育ちましたが、伝統的な萩焼の世界から大きく飛躍した創作で、注目を集めてきました。

    十二代休雪として家を継ぎましたが、2019年に弟の和彦に家督を譲り、陶号を龍氣生に改号。その歩みをたどる展覧会が、菊池寛実記念 智美術館で開催中です。



    会場の菊池寛実記念 智美術館


    展覧会は昨年、山口県立萩美術館・浦上記念館で開催された「三輪龍氣生展 ― 行け、熱き胸の思いよ。」の出品作や、同館所蔵作品、作家所蔵作品、菊池コレクションをあわせた構成です。

    展示室に至る螺旋階段を下りると、もがき、苦しみ、救いを求めるように手を伸ばす群像が。自身の深奥に溜まったヘドロのような感情をやきもので吐き出そうとした「人間シリーズ」です。



    「人間シリーズ」1976~77年 山口県立萩美術館・浦上記念館


    展示室入口近くのケースにある作品は《戴冠》。精神が高貴であることの尊さを形にしたものです。細やかな冠の細工画も目をひきます。



    《戴冠》2020年


    展示室の中は濃密な造形がずらり。三輪ワールドが始まります。

    展覧会では初期の代表作をはじめ、2019年に龍氣生に改号した後に制作された新作まで、計79点が展示されています。



    菊池寛実記念 智美術館「三輪龍氣生の陶 命蠢く」会場風景


    三輪による創作の柱といえるのが、エロス。東京藝術大学大学院を卒業後、初めて開いた1968年の個展から、後の作品に見られるエロスを象徴するモチーフがみられました。

    こちらの《女帝》には、脚の付け根に女陰がある毬栗(いがくり)が。「人間シリーズ」を制作している最中につくられたもので、官能をかたちにする事で精神的なバランスを取っていたといいます。



    (手前)《女帝》1977年 山口県立萩美術館・浦上記念館


    会場中ほどの大きな作品は《受胎》。「龍人伝説」と題したシリーズのひとつで、三輪が幼少期から青年期にかけて抱いた喜怒哀楽を「龍人」を通して形にしたものです。

    この作品は、文字通り三輪がこの世に生を受けたときを現したもの。足元の球体が受精卵、獣体は母という事になります。



    《受胎》2010年 山口県立萩美術館・浦上記念館


    展覧会のメインビジュアルになっているのが《豊饒の視志》、龍氣生に改号した後の作品です。

    頭部は荒々しい鷲の姿ですが、身体は古代トルコの豊穣の女神アルテミス像のように多数の乳房を持ち、乳房の間には男根も。「視志」は眼光鋭く意志強固なことで、三輪の造語です。



    《豊饒の視志》2020年


    羊のような頭骨から角が広がる「女帝」シリーズ。3点制作され、菊池寛実記念 智美術館の設立者である菊池智が所蔵しました。

    菊池寛実記念 智美術館では2013年に「三輪壽雪・休雪-破格の創造」展を開催。菊池は、いずれ三輪の個展を開催したいという思いがあり、それに応えるかたちで制作されたものです。

    背後にまわると、艶めかしい尻も。菊門がついているのはユニークです。



    《女帝・夏》2015年 菊池寛実記念 智美術館


    生命力と濃密さに満ちた世界観は三輪ならでは。展示空間の雰囲気にも、とても良くマッチしています。


    [ 取材・撮影・文:古川幹夫 / 2021年4月16日 ]

    《淑女と紳士》1969年 山口県立萩美術館・浦上記念館
    《黒のソナチネ》1977年 大阪市立東洋陶磁美術館(乾敦子氏寄贈)
    《愛壺》2006年
    (左から)《蓋物 白い妃》2010年 / 《蓋物 盲王》2010年 ともに山口県立萩美術館・浦上記念館
    《白日夢》2019年
    《飛翔の視志 赤》2020年
    会場
    菊池寛実記念 智美術館
    会期
    2021年4月17日(土)〜8月8日(日)
    会期終了
    開館時間
    11:00~18:00 ※入館は17:30までになります
    休館日
    月曜日
    住所
    〒105-0001 東京都港区虎ノ門4-1-35 西久保ビル
    電話 03-5733-5131
    公式サイト https://www.musee-tomo.or.jp/
    料金
    一般1100円、大学生800円、小・中・高生500円
    ※未就学児は無料
    ※障害者手帳ご提示の方(介護者の必要な方は1名迄)は通常観覧料の半額となります。
    展覧会詳細 「三輪龍氣生の陶 命蠢く」 詳細情報
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